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初めてのお稽古編『第31話』

(実の母親だからこそ、逆に辛いだろうな……)  血縁関係は時に残酷だ。どんなに嫌だと思っても、なまじ血が繋がっているせいでなかなか縁を切ることができない。  五十歳をすぎた大人は性格も変わらないだろうし、根本的な解決は難しいと思う。だから市川に「あの母親をなんとかしてくれ」と言われた時、何も言い返せなかったのだ。  そう思うと、人のいい祐介が至極気の毒になってきた。何とかしてあげたいのに、何もできない自分が情けなくなってくる。  市川がスマホをテーブルに置き、再びソファーに腰を下ろしてきた。 「……ごめんな、面倒臭い実家で。でも夏樹は何も気にする必要ないからな。夏樹が大学に入るまでには家のごたごたもなんとかするから、な?」 「別にそんなに気にしてませんよ。しばらくお屋敷に近づけないなら、その分受験勉強に専念できますし」 「そっか。勉強に関しては俺は応援しかできないけど、頑張ってくれよ?」 「わかってますよ」  くしゃ、と髪を撫でられ、ちょっと面映ゆくなる。  それで肝心のお道具は……と言おうとした時、視界の隅に全く違う道具が飛び込んできた。 「んなっ……!?」  ぎょっと目を剥き、ソファーから立ち上がる。  リビングの棚に並んでいるグッズ。それは男性のシンボルを象った玩具だった。ほとんどが生々しいピンク色で、大小いろんなサイズが揃っていた。中にはストラップにしてもよさそうなくらいのコンパクトサイズもある。 「ちょっ……なんですかアレは!」 「え? ……ああ、これのことか」  と、市川が恥ずかしげもなく玩具のひとつを手に取った。 「これ、俺がハンドメイドで作ったんだよ。よくできてるだろ?」 「そういう問題じゃない! なんでそんなもん作ってるんですか! 使い道ないでしょ!」 「いや、そんなことないぞ? 一番小さいやつなんか『子孫繁栄』のお守りになりそうじゃん。せっかくだからひとつやろうか?」 「いりませんよっ! ていうか先生、まさかこういうグッズを作るつもりでこの部屋借りたんですか!? 美和さんから逃げるためじゃなくて!?」

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