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跳び箱編『第4話』
二時間目以降の授業は、全く集中できずに終わってしまった。いつもは聞き漏らすことのない数学も急に当てられてハッとし、先生に軽く注意される羽目になった。
それもこれも、あの筋肉自慢の体育教師が「補習」などを押し付けてくるから。
(もう最悪……)
運動なんてできなくても問題ないじゃないか、と言いたい。全く身体を動かさないのは不健康かもしれないけど、一日二、三〇分の有酸素運動で健康状態は保てるものだ。ちょっと汗ばむくらいのウォーキング程度で十分である。体育の授業なんて必要ない。
まあ、夏樹がそんなことを口にしたところで高校のカリキュラムから「体育」は消えないのだけれど、だったらせめて担当教師は変えてもらえないだろうか。苦手な教師とマンツーマンで補習だなんて、考えるだけでげっそりしてしまう。
今日は厄日かも……と心の中で呪いつつ、夏樹はトイレに向かった。
そしたら更に気分が萎えるものに遭遇してしまった。
「おっ、笹野じゃん。こんなところで奇遇だな」
「げっ……! 市川先生……」
上半身裸で自分の身体をチェックしている変態教師。
登校時といい、今といい、なんで今日は会いたくない人に会ってしまう確率が高いのだろう。本当に厄日なのかもしれない。
(ていうか、マジでキモい……)
みんなが利用するようなトイレでナルシストぶりを発揮しないで欲しい。確かにいい身体をしていることは認めるが、だからと言って見たいわけではないのだ。こちらの迷惑も考えてくれ。
そんな夏樹の心情に気付いていないのか、市川は自慢の身体を見せつけてきた。
「どうよ、笹野? お前もちょっとトレーニングすれば俺みたいないい身体になれるぞ」
「……別に俺、先生みたいになりたいなんて思ったことありませんから」
「またまた~。お前も本当はこういう肉体に憧れてるんだろ? 男ならシックスパックは基本だもんな」
「……余計なお世話です。失礼します」
市川がいるトイレなんかで用を足したくない。別のトイレに行こうと思い、夏樹はさっさと立ち去ろうとした。
「おい、笹野」
だが市川に背中を向けた途端、腕を掴まれ止められてしまう。
「ちょっ……放してくださいよ! 一体なんですか」
「何って……お前、用を済ませにきたんじゃないのか?」
「そうですけど、先生がいるところでしたくないですから」
「なんでだ? 別に俺、邪魔なんかしないぞ」
存在が邪魔なんですよ……と言いかけたが、さすがにそれは言い過ぎだと思って口をつぐむ。
「とにかく、俺は別のトイレに行きますので。放してください」
「遠慮するなって。恥ずかしいなら個室に入ればいいんだし」
「は? ……うわっ!」
市川はあろうことか夏樹をひょいと抱え上げ、一緒に狭い個室に入ってしまった。カチャ、と鍵を閉めたところで、ようやく担ぎ下ろしてくれる。
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