47 / 282
夏休み編『第15話』
(もしかして、十日以上も音沙汰無しだったのは浴衣を作ってたから……?)
誰かに手伝ってもらったのかもしれないが、だとしても、この数の浴衣を作り上げるには相当な時間と労力が必要なはずだ。
仕事でもなく、大勢のためでもなく、たった一人のためにそれだけのエネルギーを割くというのは、余程の思い入れがないとできないと思う。
(ホントにこの教師は……)
不覚にも胸がキュンと疼いた。
筋肉馬鹿で、単純で、いかがわしいプレイばかり仕掛けてくる変態だけど、それ以上にいいところがたくさんある。愛情のかけ方もハンパじゃない。
そんな人が相手だから、こちらもつい絆されてしまう……。
「……わかりましたよ。今日だけ特別にこの格好でいてあげます」
そう言ったら、市川はさも嬉しそうに夏樹を抱き締めて来た。
「よかったー! じゃ、今日は浴衣デートしような! 浴衣でイチャイチャするぞー!」
「……やっぱりそれが目的だったんですか。下心丸見えですよ」
「恋人相手に下心も何もないだろ。というわけで、俺もパパッと着替えちゃうからな」
鼻歌混じりに、シンプルな藍色の浴衣に袖を通す市川。
(男性用の浴衣、普通にあるじゃん……)
この格好で市川と歩いたら、普通に男女のカップルだと思われるんだろうな……と、夏樹は姿見に映った自分を眺めた。
ともだちにシェアしよう!