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夏休み編『第16話』

 夕方近くになって、二人は祭りに繰り出した。 「いや~、今年も賑わってるな。気になる店があったら教えてくれよ?」 「はいはい」  夏樹はぐるりと祭り全体を見渡した。道の両脇にたくさんのテントが並んでおり、その間を色とりどりの提灯が繋いでいる。  私服の人もいたが浴衣の人も大勢いて、夏樹が浴衣姿で歩いていても悪目立ちはしないだろうと思われた。ちょっとホッとした。 「お? 夏樹、あそこにチョコバナナがあるぞ。食う?」 「ああ、そうですね。じゃあ買ってきてください」 「よし、ちょっと待ってろよ?」  市川はすぐさま屋台に向かっていき、チョコバナナを二本買って戻ってきた。  そのうちの一本を渡されたので、早速二人でかじりつく。 「うん、やっぱり祭りで食べるチョコバナナは美味いな。そう思わないか?」 「ええ、確かに」  不思議なことだが、家でバナナにチョコレートをかけて食べるより、祭りで食べるチョコバナナの方が美味しいような気がする。山頂で食べるカップラーメンがいつもより美味しく思えるのと似ているかもしれない。  楽しそうな雰囲気のせいだろうか。それとも一緒にいる人の違いだろうか……。 「他に食いたいもの、ない? ヨーヨー掬いや射的でもいいぞ?」 「気になったところがあったら言いますよ」  もちろん全部先生の奢りでね……と、バナナをくわえながら屋台を眺めていると、 「あら、健介じゃない」  横から女の人に声をかけられ、市川が足を止めた。  花柄の浴衣を身に纏い、長い髪をアップに結わえている美女だった。 (……健介?)  市川の名前は「慶喜」だぞ、と夏樹は思った。もしやこの女性、人違いをしているのではなかろうか。  ところが市川は、一切戸惑うことなく女性に爽やかな笑みを向けて言った。

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