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夏休み編『第17話』
「あれ、伶花か? 久しぶりだな」
「そうね、五年ぶりかしら。元気だった?」
「ああ、もちろん。伶花も全然変わってないな」
「ふふ、ありがと。真田のお父様もお元気?」
「あー……多分な。最近会ってないからなんとも言えないけど」
戸惑っている夏樹を他所に、意味のわからない話をしている二人。
(健介? 真田? 何それ? どういうことなんだ?)
この変態教師の名前は「市川慶喜 」だ。でも伶花という女性は、それとは全く関係ない「真田健介 」という名前で呼んでいる。
なんで? どうして? あなたは「市川先生」じゃなかったの?
この男は一体、何者なんだ……?
混乱していると、伶花はずいっと夏樹に顔を寄せて微笑んだ。
「あら、可愛い子ね。この子が今の彼女?」
「ああ、俺の恋人。可愛いだろ?」
恋人、と言い換えてくれたところは、市川のさり気ない気遣いだったのかもしれない。
けれど、この時の夏樹はそんな細かいところまで気付かなかった。爽やかな顔をした得体の知れない男を、ただ茫然と眺めていることしかできなかった。
伶花がころころと笑い出す。
「ふふ、健介ったら相変わらず面食いね。可愛い子に目がない」
「なんか引っ掛かる言い方だな。それじゃ俺が顔だけで相手を選んでるみたいじゃないか。夏樹は顔も可愛いけど、性格はもっと可愛いんだぞ?」
「あら。じゃあ、こんな可愛い顔して意外と気が強いってことかしら? 健介、素直で従順な子より、なかなか思い通りにならない意地っ張りな子の方が好みだったものね」
「おいおい、夏樹の前でそんな話するなよ。野暮だぞ、野暮」
苦笑しつつ、市川が夏樹の手を取った。
「じゃあな、伶花。久しぶりに会えてよかったよ」
「そうね。健介も、たまには同窓会出席しなさいよ」
「はいはい、わかったって。またな」
そう言い置き、夏樹を連れてその場を離れる市川。
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