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夏休み編『第20話』
「あら、また会ったわね」
「……え?」
顔を上げると、そこには先程の女性がいた。確か伶花と言ったか。どこで買ったのか、風車を片手に持っている。
「あなた一人? 健介はどうしたの?」
「あ、いや、それは……」
夏樹が言葉に詰まっていると、伶花は何かを察したかのように少し苦笑した。
「そこ、いいかしら」
「え、ええ……」
座る位置をずらし、伶花が座れるスペースを空けてやる。
怜花は「ありがとう」と微笑み、優雅に隣に腰を下ろしてきた。
(そういやこの人、先生の元カノなんだっけ……?)
チラチラと伶花を盗み見る。
浴衣であることを差し引いても、かなりの美人だなと思った。目鼻立ちがハッキリしているので、派手なメイクをしなくても華やかに見える。大勢の中にいてもパッと目をひく女性だ。なるほど、市川はこういう女性が好みなのか。
もっとも、彼女が変態プレイにつき合ってくれるかどうかはわからないけれど。
「あなた、ナツキちゃんって言ったわね」
「ふぇッ?」
不意に話しかけられて、声が裏返りそうになった。
(あ、そうか……。この人、俺のこと女だと思ってるのか……)
今更ながら、自分が女性の格好をしていることを思い知らされる。
ちょっと恥ずかしかったが、それよりも、初対面の……しかも市川の元カノに「男だ」とバレなかったことにホッとした。この時ばかりは、女でも通用する名前でよかったと思った。
怜花が言う。
「健介、優しいでしょう?」
「ええ、まあ……」
「その浴衣も、健介が作ってくれたものじゃない?」
「なんでわかるんですか?」
「私の時もそうだったもの。『似合いそうだから』ってわざわざ三着も作ってくれてね」
「三着……」
夏樹は視線を落とし、自分が着ている浴衣を見た。
市川が夏樹のために作った浴衣は三着どころではなかった。少なくとも十着以上はあった。もしかしたら、歴代の恋人の中でも最多かもしれない。
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