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夏休み編『第21話』

(先生……)  愛されていることはよくわかる。口先だけではなく、態度や行動でも惜しみない愛情を注がれていることが感じられる。  だけど、だけど……。 「あの……」  夏樹は思い切って顔を上げた。 「市川先生って、本当は何者なんですか?」 「……先生? あなた、健介の生徒なの?」 「えっ? あ、ええと、それはその……」 「ああ、いいのよ。先生と生徒でも。お互い好きでつき合ってるなら何の問題もないわ」 「は、はあ……そうですか」 「ところで、それはどっちの生徒なのかしら。学校? それともお茶?」 「……。……お茶?」  いきなり馴染みのない単語が飛び出して来た。 (お茶……って、もしかして『茶道』のこと?)  あの筋肉馬鹿の変態教師が茶道の先生? いやいや、まさか。市川がそんな文化的な芸を身に着けているはずがない。  夏樹は内心で笑いながら、それでも念のために尋ねてみた。 「あの、お茶ってまさか『茶道』のことじゃないですよね?」 「そうよ? 他に何があるの?」 「……はっ?」 「健介はね、『真田流本家御家元』の息子さんなの。今の御家元が亡くなったら家元になる予定なんだって。意外とお坊ちゃまなのよ、あの人」 「ええぇっ!?」  衝撃の事実に、今度こそ声が裏返った。  茶道? 真田流? 本家御家元? そんなの聞いてない。というか、茶道ができること自体知らなかったし、そもそも市川がそんなところ出身のお坊ちゃまだってことも全くの初耳だ。  あまりに非現実的すぎて、頭の回線が繋がらない。

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