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夏休み編『第23話』
Tシャツ短パンの三人の若者が、舐めるようにこちらを見ている。酒が入っているのか、顔がやや赤らんでいる男もいた。いかにもガラの悪そうな輩である。
こういうのとは関わらないのが一番だ。夏樹はサッと立ち上がり、伶花に言った。
「伶花さん、行きましょう」
「そうね」
伶花も立ち上がり、その場から離れようとする。
だが、酔った男たちは簡単には引き下がってくれなかった。
「おい、そんなつれなくすんなよ。せっかく声かけてやったんだ。ちょっと遊ぼうぜ」
「きゃっ……!」
伶花が片腕を掴まれ、前のめりに倒れかかった。
「伶花さん!」
夏樹はとっさに彼女が落とした風車を拾い、男たちに向かって投げつけた。ダーツを投げるみたいに投擲したら、男の顔に命中した。
「いてっ! 何すんだこのガキ!」
男たちが一斉に夏樹に向き直り、一番近くにいたヤツが殴りかかってくる。
それはなんとか避けられたが、別の男に浴衣の袖を掴まれ揉み合いになった。
「ナツキちゃん!」
「伶花さん、逃げてください!」
「でも……!」
「俺は大丈夫ですから、早く!」
「え? 俺……?」
「いいから! 早く先生を呼んできて!」
伶花は一瞬躊躇っていたけれど、すぐに踵を返して石段を下っていった。
三人目の男が追いかけて行ったが、ものの五分程度で戻ってきた。
「なんだよ、逃がしちまったのかよ」
「うるせーよ。人混みに入られたらわかんねぇだろ」
それを聞いて、夏樹は胸を撫で下ろした。
伶花は無事に逃げられたみたいだ。よかった。可憐な女性がこんな男どもに乱暴されるなんて、絶対にあってはならない。
「しょうがねぇな。まあ、こっちも上物だし……たっぷり可愛がってやろうぜ」
「っ……!」
顔にかすり傷のある男が、舌なめずりしながらこちらに迫ってきた。風車をぶつけられた分もまとめていたぶってやろうと考えているようだ。
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