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夏休み編『第24話』
こんなヤツらに乱暴されるわけにはいかない。
夏樹は掴まれていた袖を思いっきり振り回した。勢いで袖が裂け、袂が外れた。
その隙をつき、急いで神社の境内に逃げ込んだ。
「あっ! 待てコラ!」
男どもがバタバタと追いかけてくる。
必死に走ったけれど、靴擦れができている足では上手く走れず、あっという間に追いつかれてしまった。
「こいつ! もう逃がさねぇぞ!」
「あっ!」
後ろから肩を掴まれ、叫ぼうとした矢先に頬を叩かれる。
痛みに怯んだ隙にひょいと身体を担ぎ上げられ、夏樹は手足をばたつかせた。はずみで下駄がどこかに飛んで行ってしまった。
「放せっ! 放せよっ!」
タイミング悪く、ドーン、という音が聞こえてきた。夜空に色鮮やかな花が咲いた。花火が始まってしまったようだ。
夏樹の悲鳴は、夜空の大輪に掻き消された。
「うわっ……!」
ワゴンタイプの車に放り込まれ、ピシャリとドアを閉められてしまう。後ろの座席は予め全て倒されており、広めのスペースが出来上がっていた。
「いやだ! 触るなっ!」
身体を捩ってなんとか男たちから逃れようとしたけれど、両腕を頭上で押さえられ、身動きがとれなくなる。
「げへへ……勇ましい姉ちゃんだ。たっぷり可愛がってやるからな」
「っ……!」
知らない男たちに組み敷かれ、全身から冷や汗が噴き出してきた。恐怖と緊張で心拍数が急上昇し、無意識に奥歯がカチカチ鳴り始める。
(先生……!)
先生が側にいれば、絶対こんなことにはならなかったのに。変な男に絡まれても、すぐに追い払って守ってくれるのに。
……いや、今そんなことを考えてもしょうがないか。市川から離れたのは夏樹なのだ。些細なことで怒って、デートを台無しにした自分が悪いのだ。
だから今、こんなことになっている……。
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