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夏休み編『第29話*』
「せんせ……そんなに見ないで……」
「よかった、血は出てないな。でも内側は傷ついてるかもしれない。一応薬塗っとくか」
「……へっ?」
市川が救急箱を持ってきて、中からチューブ型の軟膏を取り出す。それを消毒した指にとり、後孔に近づけていった。
「あっ、ちょっと待っ……」
市川の指先が窄まりに触れる。最初は入口に塗布され、次いで指を差し込まれて内側にまでしっかり塗り込められた。
「っ……っ」
肉襞を掻き回される感覚に身震いする。
薬を塗られているだけなのに、指の腹で繊細な部分を擦られるとどうしようもなく感じてしまう。
おそらく、病院等で同じことをされてもここまで感じない。
相手が先生だから……市川先生にやられているから、こんなに……。
「は……っ」
ようやく指を引き抜かれ、夏樹は大きく肩で息をした。下半身に熱が溜まり始め、男のシンボルが反応しかけている。
(ああ、もう……ホント恥ずかしい……)
熱くなった顔を両手で覆っていたら、いきなり市川に抱き締められた。突然のことだったので、顔を覆ったまま固まってしまった。
「ごめんな、夏樹……本当にごめん……」
「えっ?」
「怖かったよな……痛かったよな……。全部俺が悪かった。ごめんな、夏樹……」
「……先生……?」
市川の声がわずかに震えている。いつも明るくポジティブな市川がそんな声を出すこと自体想像し難く、夏樹は意外な驚きを覚えた。
市川が呟くように言う。
「……なんか俺、こんなんばっかだ。肝心な時に助けてやれない」
「ちゃんと助けてくれたじゃないですか」
「それじゃダメなんだよ。何かが起こる前に助けられなきゃ……」
「先生はそんなエスパーじゃないでしょ」
夏樹としては、取り返しがつかなくなる前に助けてくれたんだからこれ以上先生が責任を負うことはない……と言いたかったのだが、生憎市川の表情は晴れなかった。
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