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夏休み編『第31話』

「それより、伶花さんは無事でしたか?」 「え? あ、ああ、伶花な。『ナツキちゃんが危ない』って血相変えて俺を呼びに来てくれたよ。その後彼女が警察呼びに行って……」 「じゃあ彼女は、何もされずに済んだんですね?」 「ああ……」 「ならよかったです」  ホッと溜息をついたら、市川が優しく髪を撫でて来た。 「お前、ホントにいい子だな……。自分のことより伶花の心配をするなんて」 「女性が乱暴されるよりはマシってだけです。先生だって、伶花さんが男性に襲われるのは嫌でしょ?」 「いや、もちろんそうなんだけどさ……」 「でもちょっと後悔しました。どうせなら先生から暴漢撃退法でも習っておけばよかったなって」  わざとおどけた口調で笑ってみせたら、市川が目を丸くした。 「なので先生、今度俺に護身術を教えてくださいね」 「え? 護身術?」 「そうですよ。先生だって、四六時中俺と一緒にいられるわけじゃないんですから。何かあった時に困らないためにも、自分の身は自分で守れるくらいのスキルは身につけておきたいんです」 「夏樹……」 「いつまでもあれこれ悩んでてもしょうがないでしょ。起こっちゃったことは取り消せないんだから、同じことを繰り返さないようにするにはどうするか、そっちを考えるべきだと思います。俺、運動嫌いだけど護身術くらいなら身につけて損はないと思うんで……怪我が治ったら、ちゃんと指導してくださいね」  市川がまじまじとこちらを見た。瞳の中を覗き込むように真っ直ぐ視線を注いでくる。 「…………」  ちょっと気恥ずかしかったけれど、反らしてはいけないと思い、夏樹もじっと市川を見返した。

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