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夏休み編『第33話』

(ダメだ。俺、もう先生なしじゃ生きていけないかも……)  一緒にいればいるほど、どんどん市川に惹かれていく。ブレーキの壊れた車のように、市川への想いが溢れて止まらなくなる。こんなに誰かのことを好きになったのは、初めてかもしれない……。  夏樹は甘えるように市川に抱きつくと、耳元で小さく呟いた。 「……先生、して」 「は?」 「出掛ける前は予行演習って言ってたでしょ? だったら、本番やらなきゃ意味ないですよね」 「ああ……まあそうなんだけど、お前身体大丈夫なの?」 「何の心配してるんですか。いつもヤりまくって足腰潰してくるくせに」  いつも一回だけでは終わらなくて、何度も挑まれた挙句に失神させられることも珍しくない。腰痛はいつものことだし、ひどい時は翌日歩けなくなることもあった。身体のことなんて、最初から気にしていない。  それに……。 (変な男たちにレイプされたまま、明日を迎えたくないし)  どうせなら、今日の記憶を市川に全部リセットしてもらいたかった。嫌な記憶を、市川との思い出に塗り替えてから眠りたかった。  あえて大胆に市川の股間に手を這わせ、夏樹は彼を見上げる。 「先生、お願い……」 「……ったく」  とうとう辛抱できなくなったのか、市川がソファーにのしかかってきた。 「そんなに大胆に誘ったら、どうなるかわかんないぞ?」 「何を今更。俺がどれだけ経験積んでると思ってるんですか」 「言うね~……。あんなことがあったばかりだから、今日はもうやめておこうと思ってたのにな」 「落馬した後はできるだけ早くまた馬に乗るようにしなさい、って言うでしょ。そうしないと二度と乗れなくなるからって。こういうことだって同じだと思います」 「なるほど、それは一理あるかもしれない」  軽くまぶたに口付け、市川が低い声で囁いてきた。

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