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保健の授業編『第2話』
とはいえ、単なる変態教師ではないということもわかっている。
スポーツはもちろん、料理も上手だし、手先も器用で浴衣も縫える。噂によるとかなりのお坊ちゃまで、お茶もお花もできるとか(見たことないから半信半疑だけど)。
変態だけど性格そのものはサバサバしているし、十歳も年上なのにあまり年齢差を感じさせない。そのくせ夏樹には決して財布を出させることなく、いつも大人らしい余裕を見せてくれる。
(あの変態教師、実は結構なハイスペック男なのかも……)
世間ではそういう恋人のことを『スーパーダーリン』(略してスパダリ)と言うらしいが、確かに顔も性格もよく、金持ちでいろんなスキルも高いというのは、『スパダリ』の定義に当てはまらなくもない。
最初は筋肉馬鹿だと思っていたけれど、最近、言うほど頭も悪くないのではないかと思い始めている。
そして何より――自分が心底に市川に惚れているのは紛れもない事実だった。
例の補習を受けさせられる前は、それこそ「あんな筋肉馬鹿の変態教師、大嫌い」と思っていたのに、今では心情が一八〇度変わってしまった。
かっこよくて優しくてなんでもできて、ピンチの時は颯爽と現れて助けてくれる。
夏樹にとって市川は――決して口には出さないが――自分を守ってくれる王子様そのものであった。
その時、授業開始のチャイムが鳴った。ほぼ同時に市川が大教室に入ってきた。
「よし、じゃあ授業を始めるぞー!」
身体を動かす授業ではないのに、ジャージ姿というのは相変わらずだ。それでも内心ドキドキしてしまうんだから、自分でも重症だなと思う。
夏樹はあえてなんでもないフリをして、教科書に目を落とした。
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