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保健の授業編『第3話』
無事に「保健」の授業が終わり、夏樹は教科書を抱えて大教室を出た。
……正直言って、内容はほとんど頭に入って来なかった。
最初はちゃんと話を聞こうと思っていたのだが、発育がどうとか二次成長がどうとか、もっとあからさまに男女の性器はこんな違いがあり……云々といった話をされると、どうにも気恥ずかしくて集中できなかったのだ。
しかも、その授業をしているのは、あの変態教師。
本人は真面目に授業をしているつもりでも、毎日のように市川に可愛がられている身としては、彼の口から「性器が~」みたいな言葉が出てくるだけで身体がムズムズしてしまう。市川から与えられる快感を思い出して下半身が熱くなってしまう。
もし市川以外の教師に授業されていれば、ここまで集中力を欠くことはなかったかもしれないのに……。
「おう夏樹、ちょっと待て」
例の如く、市川に呼び止められて夏樹はビクッと肩を震わせた。嫌な予感がしつつも、仕方なく足を止めて振り返る。
「なんですか……?」
「今の授業なんだけどさ、お前、ちゃんと聞いてなかっただろ」
図星を突かれてドキッとする。
でもここでそれを認めたらまた「補習だ」と言われることがわかりきっていたので、夏樹は精一杯虚勢を張った。
「き、聞いてましたよ!」
「ホントかぁ? なんか終始上の空に見えたけどな」
「気のせいです。先生が気にするようなことは何もありません」
「ふーん? じゃあお前、俺が授業中にした雑談の内容、覚えてる?」
「えっ? 雑談……?」
そんなのわかるはずがない。授業だってちゃんと聞いていなかったのに。
内心焦っていたら、市川はどこか勝ち誇ったようにニヤリと口角を持ち上げた。その笑い方にちょっとイラッとした。
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