78 / 282
保健の授業編『第4話』
「じゃあお前、今日は『保健』の補習授業な」
「えええ!? なんでまた!?」
「授業聞いてなかったお前が悪いんだろ。せっかくのデスクワークだったのに、なんで集中できなかったんだよ」
「だ、だって……」
先生に抱かれたことを思い出しちゃって……だなんて、口が裂けても言えない。みるみる顔が熱くなり、頬を染めながら無言で俯く。
すると、
「……なんか顔が赤いな。もしかして体調悪かったとか?」
市川がこちらを覗き込みつつ、額に手を当ててきた。そのせいでますます顔が赤くなった。
「あっ……違います! 身体は元気ですから、熱なんて……」
「いやいや、風邪はひき始めが肝心なんだ。保健室連れてってやるから少し休もう。な?」
「えっ? あ、ちょっと……!」
いとも簡単に横抱きにされ、夏樹は全身から火を噴きそうになった。みんなが見ているところでどうしてお姫様抱っこなんてするんだ、この変態教師は!
「下ろしてくださいよ! 俺、風邪なんかひいてないし! 自分で歩けます!」
「遠慮するなって。お前くらいの体重が腕の筋トレにはちょうどいいんだ」
「俺を筋トレの道具代わりにしないでください!」
「道具代わりだなんてとんでもない。お前は何物にも代えられない大事な恋人だよ。……な、お姫様?」
「っ……!」
耳元で甘く囁かれて、一気に全身の力が抜けた。
普通なら赤面するような台詞を当たり前のように口にできるところも、変態教師の所以かもしれない……。
(なんだかんだで、俺も単純だよな……)
どんなに強がってみせても、市川の愛情に触れると途端に絆されてしまう。みんなの前でお姫様抱っこされているにもかかわらず、自分から市川にしがみついてしまう始末だ。
こんなおおっぴらなことをしていたら絶対誰かに気付かれる……と内心で冷や汗をかきつつも、好きなものは好きなんだからしょうがない……と開き直っている自分もいる。
ともだちにシェアしよう!