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文化祭編『第2話』
(あの変態教師ぃぃ……!)
市川の「してやったり」な顔が目に浮かぶ。
おそらく彼は夏樹のクラスの出し物が「喫茶店」であることを知って「それならこれ使えよ」などと言い簡易着物を提供したに違いない。「お茶を出すなら衣装は着物の方がいいだろ?」とか「男子校の文化祭って言ったら女装が定番だよな」などと言いくるめ、この女物の着物を衣装にすることを了承させたのだろう。口から出まかせは得意な市川らしい。
(ホントにとことん変態だな、あいつは!)
夏樹にこの衣装を着せるためなら手段を選ばない。裏工作、根回しはお手の物だ。それだけ小賢しいことができるなら、その頭をもっと他のところに使えと言いたくなる。
「ぐぐぐ……」
思わず拳を固めたが、本人がここにいないのではどうしようもない。もし校舎内で遭遇したら、文句を言ってやろう。
「……はあ」
仕方なく夏樹は、渡された着物に袖を通した。どうやって市川をぶん殴ってやろうか、いろいろ妄想しながら。
***
「いらっしゃいませ~! 純喫茶・パラダイスへようこそ~!」
クラスメートが客寄せしている声が聞こえる。
夏樹はそれを聞き流しながら、教室の裏手で黙々と緑茶を淹れた。
客入りは上々のようだ。夏樹がシフトに入っている時間、十一時~十三時は特に混雑する時間帯らしく、ホールスタッフもキッチンスタッフもみんな忙しそうに動き回っていた。
夏樹は表に出るのは苦手なので裏方のキッチンで働いていたのだが、
「なっちゃん、なっちゃん!」
同じくシフトに入っていた宮本翔太 がキッチンを覗き込んできた。
漫画研究部に所属している翔太はクラスメートの中でも明るくて人当たりがよく、誰とでもすぐに仲良くできるタイプだ。友達を選ぶ夏樹とは正反対の性格だけど、何故か初対面から馬が合い、市川といる時以外は翔太とつるんでいることが多い。
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