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文化祭編『第3話』

「なっちゃん、ちょっとホール入ってくれない?」 「え? いや、俺は裏方でいいよ。接客とか向いてないし……」 「大丈夫、やってみればなんとかなるよ。なっちゃん可愛いから、万が一オーダー間違ってもテヘペロでごまかせるよ」  ……それはいろんな意味でマズいと思うのだが。 「というか真面目な話、こっちの人手も足りなくて困ってるんだ。一瞬でいいからホールに来てくれない?」 「……ったく、しょうがないな」  翔太に押し切られ、仕方なく夏樹はホールに出た。  教室に並べられている机のほとんどは、お客さんで埋まっている。  男子校の文化祭だから女性客ばかりかなと思いきや、意外と男性客も多かった。着物を着ているスタッフを目で追いかけ、ニヤニヤしながら眺めている。 (ていうか、そんなニヤけるものか? これ……)  女装したメイドさんならわかるけど、このピンクの着物にニヤけるほどの萌え要素があるとは思えない。露出も少ないし、デザイン的にも派手な部分は見当たらない。  まあ好みは人それぞれかな……と考えながら、夏樹はメニューを見ている男性客の注文を取りに行った。 「ご注文はお決まりでしょうか」 「んー……そうだな。じゃあ緑茶と月見団子を頼むよ」 「かしこまりました」  軽くメモを取り、そのままテーブルを離れようとしたら、 「にしても、きみめっちゃ可愛いね! 仕事終わったらデートしない?」 「……はい?」  いきなりの口説き文句に唖然としてしまった。こんなあからさまなナンパを仕掛けてくるヤツが本当にいるのか。あの変態教師ですら、初対面の相手にはこんなこと言わないと思う。

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