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文化祭編『第4話』
「いえ、それはちょっと……」
ここで「またまた~! お客さん、お上手ですね」などと冗談交じりに返してしまえば、話はそれで終わったかもしれない。
だけど夏樹は初対面の人に冗談を言えるほど社交的ではないし、そんな余裕もなかった。だから真面目に返事をしてしまった。
それが話を長引かせる原因となったのかもしれない。
「そんなこと言わずにさ。きみ、何時まで仕事なの?」
「一時までですけど……」
「じゃあ、それまで待ってるよ。軽く校舎内案内してくれるだけでいいからさ」
「いえ、その……俺にも用事がありますので……」
「用事? じゃあ俺も一緒について行くよ」
「いや、あの……そういうの、ホントに困るんで……」
どう断ればいいかわからず、「お茶とお菓子持ってきます」と逃げようとしたら、ガシッと着物の裾を掴まれてしまった。
「ちょっと、何するんですか」
「そんなつれないこと言わないでさ。せめて名前だけでも教えてよ」
「だから……! もういい加減にしてくださいよ」
ここまでされたら、お客さんでも関係ない。最近市川から教わった「痴漢撃退法」を試してやろうかと、拳を固めかけた。
その時だった。
「いててて! 誰だお前! 放せよ!」
「生徒へのお障りは厳禁となっております。予めご了承ください」
しつこいナンパ男の腕を軽く捻り上げている人物がいた。
スタイリッシュなジャージに身を包み、何故か竹刀を携帯している変態教師だ。
「わ、わかったよ! 悪かったな、お嬢ちゃん」
「おじょ……!?」
誰がお嬢ちゃんだ、と怒鳴り返す前に、ナンパ男は席を立って教室を出て行ってしまった。
なんだ、あの失礼な男は! やっぱり「痴漢撃退法」を試してやればよかった!
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