98 / 282

文化祭編『第4話』

「いえ、それはちょっと……」  ここで「またまた~! お客さん、お上手ですね」などと冗談交じりに返してしまえば、話はそれで終わったかもしれない。  だけど夏樹は初対面の人に冗談を言えるほど社交的ではないし、そんな余裕もなかった。だから真面目に返事をしてしまった。  それが話を長引かせる原因となったのかもしれない。 「そんなこと言わずにさ。きみ、何時まで仕事なの?」 「一時までですけど……」 「じゃあ、それまで待ってるよ。軽く校舎内案内してくれるだけでいいからさ」 「いえ、その……俺にも用事がありますので……」 「用事? じゃあ俺も一緒について行くよ」 「いや、あの……そういうの、ホントに困るんで……」  どう断ればいいかわからず、「お茶とお菓子持ってきます」と逃げようとしたら、ガシッと着物の裾を掴まれてしまった。 「ちょっと、何するんですか」 「そんなつれないこと言わないでさ。せめて名前だけでも教えてよ」 「だから……! もういい加減にしてくださいよ」  ここまでされたら、お客さんでも関係ない。最近市川から教わった「痴漢撃退法」を試してやろうかと、拳を固めかけた。  その時だった。 「いててて! 誰だお前! 放せよ!」 「生徒へのお障りは厳禁となっております。予めご了承ください」  しつこいナンパ男の腕を軽く捻り上げている人物がいた。  スタイリッシュなジャージに身を包み、何故か竹刀を携帯している変態教師だ。 「わ、わかったよ! 悪かったな、お嬢ちゃん」 「おじょ……!?」  誰がお嬢ちゃんだ、と怒鳴り返す前に、ナンパ男は席を立って教室を出て行ってしまった。  なんだ、あの失礼な男は! やっぱり「痴漢撃退法」を試してやればよかった!

ともだちにシェアしよう!