101 / 282

文化祭編『第7話』

「今日の茶道部は、教室で立礼式の茶会を開いてるらしいから茶室は誰も使ってないんだ。本格的な茶席は今からじゃ無理だけど、雰囲気くらいは楽しめるようにしとくから。な?」 「はあ、そうですか。じゃあ……」  茶道のことは全然知らないが、市川が茶を点ててくれるならちょっと見てみたい。この変態教師の文化的才能を、しっかり目に焼き付けてやろうではないか。 「えっ? 市川先生、お茶点てられるんですか?」  すると、それを聞きつけた翔太が話に割り込んできた。 「いいなー! 僕も見てみたい! せっかくだから僕も行っていいですか?」 「ああ、いいよ。来たいヤツは遠慮せずに来ていいぞ。ただし、そんな大人数は入れないからせいぜい六人までな」  嫌な顔ひとつせず、歓迎の意思を示す市川。 (あ、二人きりじゃないのか……)  茶室で二人きりになったら絶対アレな展開に持ち込まれると思っていたが、翔太がいるならそういうことにはならないだろう。少しホッとした。 「よし、じゃあ早速準備してくるか。それじゃ、また後でな」  月見団子を一気にふたつ頬張り、茶を流し込んで市川は席を立った。  空っぽの湯飲みとお盆を片付けながら、夏樹はふとあることに気付く。 「……あ、お代いただくの忘れた」 「いいじゃん。それは後で回収すればさ」  と、笑いかけてくる翔太。そして小声でこんなことを言ってくる。 「……それよりごめんね? 二人きりになれそうなところを邪魔しちゃって」 「……えっ? いや、別に俺は……」 「あ、大丈夫だよ。先生のお茶飲めたら僕は退散するから。あとは二人で楽しんでね」 「ちょっ……! それ、どういう意味!?」  まさか翔太のヤツ、俺と先生がつき合ってること知ってるのか!? 俺、そんなこと一言も喋ってないんだけど! 「ちょっと翔太! 今の話、詳しく……うわっ!」  あまりに慌てたため、湯飲みを落としそうになった。  夏樹は冷や汗をかきながら、ニヤニヤしている翔太を追いかけた。

ともだちにシェアしよう!