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文化祭編『第16話*』
「あ……あぁ……」
勢い余って胸元まで飛び散ってしまったけれど、市川が手で受け止めてくれたので畳は汚さずに済んだ。
ぐったりと肩で息をしていると、精液で濡れた手を口元に持って来られて、中に指を突っ込まれた。青臭い味が舌に広がり、ちょっとえずきそうになる。
「んんっ……あ、せんせ……」
「御服加減はいかがですか?」
「……ふあ? な、なんのこと……んっ」
「濃茶の点前をする時、亭主がお客様に聞くんだ。『御服加減はいかがですか?』って。平たく言えば、『私がお出しした物は口に合いましたか』ってことだな」
「なっ……!? そん、うぅ……」
それは絶対に嘘だ! 真面目な茶道のお点前に、そんなけしからん問いかけがあるわけがない!
目を見開いている夏樹を他所に、市川は涼しい顔で解説を続ける。
「……で、そうやって聞かれたお客様は『大変結構でございます』とか『大変結構なお点前です』とか言って、亭主に一礼するんだ。これが濃茶の作法な。わかった?」
「んんっ……う、ふ……っ」
「というわけで夏樹、もう一回聞くぞ? 御服加減はいかがですか?」
「っ……」
夏樹は横目で市川を睨んだ。
(『いかがですか』じゃないだろ! この変態教師!)
自分の精液なんて口に合うわけがない。それを「大変結構でございます」などと答えてしまったら、とんでもないド変態ではないか。
意地でも言いたくなかったので、夏樹はわざと別の言葉を口にした。
「……最悪です」
ところがそう言った途端、市川にぐっ……と喉奥まで指を突っ込まれて舌を掴まれてしまった。生理的な吐き気がこみ上げてきて、視界もじわじわ滲んでくる。
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