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冬休み編『第17話』

「……もしもし」 「おう、夏樹! どうだ、調子は? もう風邪は治ったか?」 「えっ……?」 「お前、終業式の時具合悪そうだったからさ。風邪かインフルにでもかかったのかと思って」 「それは……」 「……でも、その調子だとまだあまり元気じゃなさそうだな。声に覇気がない」 「…………」 「本当に大丈夫か? お前、家に一人だろ? 何かメシでも作りに行ってやろうか?」  一瞬気分が明るくなったが、それはマズいと思い直す。今市川に会ったら、河口のことを洗いざらいぶちまけてしまそうだ。  夏樹はやんわりと断りを入れた。 「ちょっと疲れているだけですよ。俺は先生みたいな体力馬鹿じゃないんでね、元気がない時だってあるんです」 「そうか? 具合が悪いわけじゃないのか?」 「悪くないですよ。だからうちに来る必要はないですからね」 「そうか。じゃ、これからデートしようぜ?」 「えっ……?」 「今日はクリスマスだろ? 恋人同士なら、デートするのが当たり前だよな。具合が悪いんじゃなければ、どっか行こうぜ」 「いや、それは……」  だから、先生に会うこと自体がマズいのだが……。 「今から小一時間くらいで迎えに行くからさ。身支度して待っててくれよ? じゃ」  一人で勝手に決め、市川は一方的に電話を切ってしまった。 (どうしよう……)  こんなことなら、仮病でも「具合が悪い」と言っておけばよかった。いや、そもそも電話に出なければ……。  後悔しても今更遅く、夏樹はやや青ざめながら自分の部屋をうろついた。

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