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冬休み編『第24話』
「っ……!」
勢いよく身体が弾き飛んだのを感じた。頬に痛みを感じるより先に、運悪くベンチの角ーーちょうど尖っていた部分に顔をぶつけてしまい、額がザックリ切れてしまった。
「い……っ!」
額から血液があふれ、どっと目に流れ込んでくる。痛いことは痛いが、自分の血に目を潰されて前を見ることができなかった。
「な、夏樹!? 夏樹、大丈夫か!?」
市川の声だけはハッキリ聞こえる。彼にしては珍しく切羽詰まったような声だった。
慌てて自分を抱き上げて、周囲に叫んでいる。
「と、とにかく救急車……! 誰か、救急車呼んでくれ!」
「せんせ……」
何か喋ろうと思ったのに、唇を動かしただけでも痛みが走った。もしかしたら殴られた時に、もれなく唇も切れてしまったのかもしれない。
先生、大袈裟ですよ。痛いことは痛いけど顔がちょっと切れただけなんだから。死ぬわけじゃないし、心配いりませんよ。
そんなことより早く家に帰りたい。大事になる前に、先生とちゃんと話し合っておきたい。
そうでないと、このまま関係がこじれてしまいそうで……。
そう思ったのに、あれよあれよという間に救急車を呼ばれ、夏樹は病院に運ばれてしまった。
病院に着いてからは市川とも離ればなれになり、医師や看護師に処置されるまま、結果的に額を四針縫うことになった。さすがにめちゃくちゃ痛かった。
「う……」
全ての処置を終え、夏樹はふらふらと待合室に向かった。
(……とんだクリスマスになっちゃったな)
額の疼痛もそうだが、頬への殴打と唇が切れたことによるダメージ、今までのゴタゴタでの精神疲労……それら全てが夏樹の体力をごっそり持って行った。
もう早く帰りたい。何も考えずに、暖かいベッドで眠りたい。話をするのは明日でいいや。先生だって、一日くらい待ってくれるはず……。
「夏樹……」
待合室でソファーに腰掛けていた市川が、いそいそとこちらにやってきた。
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