138 / 282

冬休み編『第25話』

 何か言いたげな顔をしていたが、結局何も言わずに夏樹を座らせ、自分は受付で会計を済ませていた。 「……帰ろうか」  夏樹は機械的に頷いた。  市川が運転する車に乗り込み、ただボーッと外を眺めた。クリスマス特有のイルミネーションが綺麗だった。 (来年は、もう少しちゃんとしたイルミネーション見に行きたいな……)  今年はいろんなことがあったから、来年はいい年になるに違いない……。  そんなことを考えていたら、ちょっとうとうとしてしまった。短い間だったが、楽しい夢を見ていたような気がした。 「……夏樹、ついたぞ」  優しく声をかけられ、夏樹はふと目を覚ました。そこは自分の家の前だった。市川のマンションではなかった。少し残念に思った。  起きた途端、現実的な額の疼痛が襲ってきた。このズキズキする痛み、地味に鬱陶しい。冬休みが終わる頃にはある程度治っているといいのだが。  のろのろと車を降り、自宅のドアまで歩いていった。市川も黙ってその後ろからついてきてくれた。  夏樹はドアに手をかけ、痛い唇を懸命に動かしてこれだけ言った。 「……いろいろ迷惑かけてすみませんでした。詳しいことはまた後で話しますので」 「夏樹」  ここでようやく市川が口を開いた。  何を言うのかと思っていたら、彼から飛び出してきたのは驚くべき言葉だった。 「別れよう」 「…………えっ?」  あまりにも唐突すぎて、本気で聞き間違いかと思った。  夏樹は市川を見上げ、聞き直した。 「……今、なんて言いました?」 「別れようって言ったんだよ」 「いや、そんな……」  なんでいきなりそんなことを言うんだろう。先生に相談しなかったことを怒っているんだろうか。トラブルばかり引き起こすから、いい加減愛想を尽かされてしまったんだろうか。  それとも、もっと別の理由で……?

ともだちにシェアしよう!