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冬休み編『第27話』

 翌日、夏樹は昼過ぎになってようやくベッドから抜け出した。未だに頭がボーッとしていた。細かい思考力は目覚めていなかったが、生理的な空腹と喉の渇きは感じていた。  のろのろと冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターをがぶ飲みする。冷え切ったハムやチーズがあったので、それを取り出して余ったパンに挟み、機械的に口に運んだ。  ぼんやりしたまま食事を終わらせ、血糖値を上げたところでシャワーを浴びることにした。  額のガーゼや唇の絆創膏をそっと剥がし、裸になって風呂場に入ったら、鏡に映った自分の姿が目に入った。  ほっそりと痩せこけ、頬には青アザができ、唇は切れて、額には四針縫った痕が残っていた。自分でも痛々しくて、つい目を逸らしてしまった。こんな顔じゃ、しばらく外出できそうにない。  痛みを堪えながらシャワーを浴び、なんとか身体の汚れを落としてから風呂場を出た。  ようやく頭がハッキリしてきたので、夏樹は自分の部屋に戻った。時刻は午後二時を過ぎていた。 (電話しなきゃ……)  話はまだ終わってない。先生の言い分もわからんではないけれど、向こうから一方的に別れを切り出されるなんて納得できなかった。  だいたい、この状態で「別れてくれ」なんて言う方がよっぽど無責任じゃないか。可愛い恋人を殴って顔に傷まで負わせたくせに、そのまま逃げるなんて許せない。別れ話の前にまずたっぷり文句を言ってやろう。  そう思い、夏樹は市川の電話番号を探し出し、通話ボタンを押した。考えてみれば、自分から電話をかけるのは初めてかもしれない。  ところが……。 「……あれ?」  何回コールしても、数コールの後に通話が途切れてしまう。普通の音声通話でもLINEの無料電話でも応答がなかった。  はて、スマホの電源でも切っているのだろうか。それとも、お取込み中で電話が取れないんだろうか。

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