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冬休み編『第30話』

 冬休みも過ぎ、三学期がやってきた。  夏樹は何事もなかったように学校に登校した。  青アザはほぼ消えていたし、切れた唇も治っている。額の傷も抜糸が済んでいた。跡は少し残っているものの、前髪に隠れて目立たないから、友達に何か言われることはないだろう。 (結局、先生から連絡なかったな……)  本当は冬休み中にちゃんと話をしたかった。全部包み隠さず話をして、ちゃんと仲直りして、わだかまりなく新学期を迎えたかった。  こんなことなら自分から電話してやればよかったかもしれない……と、少しだけ後悔する。  だがあれ以来、河口からも連絡は入らなくなっていた。  もともと受験のストレス発散で夏樹を脅して来たようなヤツだから、受験そのものに影響が出るような――市川に目をつけられている状態で夏樹にちょっかいを出して、それで推薦がもらえなくなる……みたいな真似は――できなかったのかもしれない。  まったく、今思えばいろいろとチキンな野郎だった。あんなヤツに今まで脅され、結果的に顔に傷を負ってしまったなんて、腹立たしいことこの上ない。慰謝料として、河口にいくらか請求したいくらいである。  まあ、何にせよひとつ悩み事が減ったのだ。これで心置きなく先生と話し合いができる。  そう思って、教室で新しく配られた時間割に目を通した。  何気なく「保健・体育」が何曜日にあるのかを確認し、その下に書かれている教師の名前を見た。 「えっ……?」  思わず驚愕の声が漏れてしまった。見間違いかと思って目を擦ってから、もう一度よく見てみる。  それでも書かれている名前は変わらなかった。 (「山下」……って誰?)  保健・体育の担当教師。本当なら「市川」と書かれているはずなのに、「山下」という聞いたことのない教師の名前が書かれていた。  なんで? どうして? 各科目の担当教師は、一年間変わらないはずだ。途中で代わることなんて今までなかった。なのに一体どういうことなんだろう……?

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