144 / 282

冬休み編『第31話』

「みんな、HRするぞ。席に着け~!」  呆然としていると、担任教師が教室に入ってきた。恰幅のいい中年男性だ。  彼は新年の挨拶といつもの事務連絡、冬休みの課題の回収をしつつ、最後にこう付け加えた。 「えー、それと……体育の市川先生は一身上の都合で退職したから、三学期からは別の先生になる。初授業の時に挨拶があると思うから、よろしくな」  聞いた瞬間、後頭部を思いっきり石で殴られたような衝撃があった。比喩でもなんでもなく、本当にめまいを覚えた。 (先生……退職したって、どういうこと……!?)  それ以降の話は、ほとんど耳に入って来なかった。  夏樹は上の空状態で、三学期初日のHRをやり過ごしたのだった。 「なっちゃん、なっちゃん! 市川先生、なんで学校辞めちゃったの?」  宮本翔太が早速声をかけてくる。そう言えば、彼だけは市川と付き合っていることを知っていたんだった。 「……知らないよ。最近話せてないし」 「え? 話せてないって、どういうこと?」  仕方なく、夏樹は簡単に経緯を説明してやった。詳細を語るのは心理的に辛かったので、河口に脅された部分に関しては適当にごまかしてみた。 「うわぁ……そんなことがあったんだ。大変だったね、なっちゃん」  と、翔太が同情してくる。 「じゃあさ、先生のマンションに直接会いに行けばいいんじゃない?」 「えっ……?」 「学校は辞めても、住所はまだ変わってないでしょ。今日学校終わったら先生の家に乗り込まない? 引っ越されちゃうかもしれないから、早くした方がいいよ」  それもそうか。学校で会えないのなら、直接会いに行って話をすればいい。

ともだちにシェアしよう!