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冬休み編『第31話』
「みんな、HRするぞ。席に着け~!」
呆然としていると、担任教師が教室に入ってきた。恰幅のいい中年男性だ。
彼は新年の挨拶といつもの事務連絡、冬休みの課題の回収をしつつ、最後にこう付け加えた。
「えー、それと……体育の市川先生は一身上の都合で退職したから、三学期からは別の先生になる。初授業の時に挨拶があると思うから、よろしくな」
聞いた瞬間、後頭部を思いっきり石で殴られたような衝撃があった。比喩でもなんでもなく、本当にめまいを覚えた。
(先生……退職したって、どういうこと……!?)
それ以降の話は、ほとんど耳に入って来なかった。
夏樹は上の空状態で、三学期初日のHRをやり過ごしたのだった。
「なっちゃん、なっちゃん! 市川先生、なんで学校辞めちゃったの?」
宮本翔太が早速声をかけてくる。そう言えば、彼だけは市川と付き合っていることを知っていたんだった。
「……知らないよ。最近話せてないし」
「え? 話せてないって、どういうこと?」
仕方なく、夏樹は簡単に経緯を説明してやった。詳細を語るのは心理的に辛かったので、河口に脅された部分に関しては適当にごまかしてみた。
「うわぁ……そんなことがあったんだ。大変だったね、なっちゃん」
と、翔太が同情してくる。
「じゃあさ、先生のマンションに直接会いに行けばいいんじゃない?」
「えっ……?」
「学校は辞めても、住所はまだ変わってないでしょ。今日学校終わったら先生の家に乗り込まない? 引っ越されちゃうかもしれないから、早くした方がいいよ」
それもそうか。学校で会えないのなら、直接会いに行って話をすればいい。
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