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冬休み編『第33話』
「あっ……すみません、お騒がせして」
「いえ、それはいいんですけど……。そこに住んでいた方なら、つい先日引っ越されましたよ」
「えっ!? 引っ越した!?」
「え、ええ……。うちにも挨拶に来られましたから。背の高い爽やかそうなお兄さんですよね?」
「そ、そうです……! あの、その人どこに引っ越すとか言ってませんでしたか?」
「確か、実家に戻るとか言っていましたよ。実家がどこかは言ってなかったけど」
「…………」
……本気で頭が痛くなってきた。
何の説明もなくいきなり学校を辞め、何も言わずに実家に帰ってしまうとは何事か。
誰に挨拶せずとも、俺にだけはきちんと説明すべきだったんじゃないのか。俺はその程度の存在だったのか。
(あンの変態教師ぃぃ……!)
無言で姿を消されたショックよりも、軽んじられた怒りがふつふつと沸いてきた。何もかもが納得できなくて、今すぐにでも本人に会って一発ぶん殴りたい衝動に駆られた。
「どうもありがとうございました。失礼します」
夏樹は早口に中年女性に礼を言って、マンションを後にした。翔太も後ろからついてきた。
「なっちゃん、ちょっと待ってよ。これからどうするの?」
「決まってるだろ。先生の実家に行くんだよ」
「先生の実家ってどこにあるのさ?」
「それは……学校の先生に聞けば誰か知ってるはずだよ」
「じゃ、これから学校に戻るわけ?」
「そうだよ。もう我慢できない。こうなったら、実家に押し掛けて一発ぶん殴ってやる!」
翔太は何も言わなかったが、少し曖昧な顔をして学校までついてきてくれた。
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