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春休み編『第5話』

 京都に到着し、夏樹は早速家元の住所をメモした紙を取り出した。  地図を見てみたらかなり辺鄙な場所にあるということがわかり、京都駅からバスや電車を経由しないと辿り着けなさそうだった。 (でもここまで来たら、山奥だろうがどこだろうが関係ない!)  改めて気合を入れ直し、夏樹は最初の地下鉄に乗り込んだ。  そのまま何本か電車やバスを乗り継ぎ、一時間以上かかって家元のお屋敷の最寄り駅に到着した。 「……なっちゃん。お屋敷って一体どこにあるの?」 「……住所を見る限り、この山の中っぽいな……」 「うへぇ……やっぱりか……」  翔太が、目の前の山を見てげっそりと肩を落とす。  家元のお屋敷は本当に山奥にあるらしく、最寄り駅から降りて、更に舗装された山道を歩かなければならないようだった。  山奥だろうがどこだろうが関係ない……とは思っていたものの、さすがに歩いて行くのはしんどい場所だ。今更ながら、翔太とタクシーを使って割り勘した方がよかったのではないかと思った。 「それにしても、先生の実家ってすごい場所にあるんだね。これじゃスマホの電波も入らなさそう」 「あー……確かに。俺が送ったメッセージも全然既読つかなかったけど、もしかしたら山奥すぎて電波が届きづらかったのかも……」  そう考えると、夏休みに一定期間音信不通になったのも納得がいく。  今までは「浴衣を十着縫っていたためだ」と思っていたが、浴衣制作中でも電話やメールくらいできるはずだ。それを全くして来なかったということは、実家に帰っていた可能性が高い。夏休み中――しかもお盆期間だったから、十日ほどの帰省は当たり前だ。 (でも……それならそうと説明して欲しかったな……)  思えば市川は、実家に関することはあまり話したがらなかった。本名の「真田健介」ですら、元カノ・伶花とのやり取りで判明したくらいである。  余程事情が複雑なのか、親戚との関係がよくないのか、それとももっと別の理由があって……? 「あ、なっちゃん。あれかな?」 「……え?」  翔太に袖を引っ張られ、夏樹は我に返って顔を上げた。

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