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春休み編『第6話』
目の前には、和風の高級旅館らしき建物が聳え立っていた。
(これが先生の実家……)
ここが噂に聞く「真田流本家御家元」のお住まいらしい。門を開ける前から背筋がピシッと伸びる心地がする。今更だけど、だんだん緊張してきた。
「ふー……」
とはいえ、ここで怖気づくわけにはいかない。
夏樹は勇気を出して木製の門を開けた。インターフォンのようなものがなかったので、「ご自由にお入りください」という意味だと勝手に解釈することにした。
建物の扉の前まで行き、周りの様子を確かめる。これまたインターフォンのようなものはなかった。
仕方なく、翔太に確認してみる。
「……これ、勝手に開けていいと思う?」
「いいんじゃない? 多分、昔ながらの家なんだと思うよ。ほら、よくあるじゃない? 扉を開けて玄関で『ごめんくださーい』って言うやつ」
「……はあ、やっぱりか。面倒だなぁ……」
さすがに少し辟易したが、文句を言っても仕方がない。
夏樹は思い切って扉を開け、玄関で声を張り上げた。
「ごめんくださーい! どなたかいらっしゃいませんかー?」
「……はーい、ちょっと待ってくださいねー!」
廊下の奥から声が聞こえ、しばらくして若い二十代の男性がやってきてくれた。紺色の和服に身を包んでいる、端整な男性だ。穏やかで優しそうな雰囲気をしている。
ただ、杖をついているのでかなり歩みが遅かった。どうやら足が悪いらしい。
男性は夏樹たちを眺めて、少し首をかしげた。
「ええと、どちら様かな? 入門希望者……ではないよね?」
「は、はい。あの、こちらに市川……じゃない、『真田健介』さんはいらっしゃいますか?」
「ああ、健介のお客さんか。健介なら今ちょうどお稽古が終わったところだから、呼んで来てあげるよ」
「あ、でも……」
杖ついている人に歩かせるのは悪いな……と思っていると、奥から軽快な足音が聞こえて来た。その人物は、杖の男性と同じく紺色の和服を着ていた。
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