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春休み編『第12話』
「それでも、祐介が次期家元だった時はよかったんだ。俺が何をしようと、祐介が家元になるのは揺るがないし……美和さんも表立って何かしてくることはなかった。……でも、祐介の足が悪くなって俺が家元を継ぐことになってから、俺への風当たりが強くなったんだ。……ま、大事な息子の足をダメにしたヤツのことなんて許せるはずもないんだけどさ」
「……先生……」
「だから俺、居心地が悪くなって実家を出た。それで、全然関係ない体育教師として東京で就職したんだ。……ただ、家元には『三十歳までには戻って来い』って言われてたから、お前が高校卒業したら実家に戻ろうと思ってたけど」
……ということは、遅かれ早かれ別れを切り出されていた可能性があったということか。
(そういうことはもっと早く言ってよ……)
実家の話はあまりしたくなかったのかもしれないが、いきなり別れを切り出される身にもなって欲しいものだ。
最初から包み隠さず話してくれれば、俺だってちゃんと覚悟を決めて先生と付き合えたのに……。
複雑な思いを堪えつつ、夏樹はあえて別の言葉を口にした。
「先生……俺が意見するのは生意気かもしれないですけど、祐介さんの足が悪くなったのは先生のせいじゃないですよ。先生が祐介さんのバイクに何か細工したわけじゃないんだし、事故はあくまで不幸な事故です。そんな責任感じることないですって」
「……そうかもな」
市川が少しだけ苦笑した。
「でもな……俺、思ったんだよ。俺と仲良くしてるヤツは大抵とんでもない目に遭う。祐介は足がダメになって、夏樹は額を四針縫った。全部俺が原因で起こったことだ。だからこれ以上夏樹が怪我を負わないうちに、別れた方がいいと思ったんだよ」
「だからそれは」
「それにさ……」
と、言葉を遮られる。
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