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春休み編『第13話』

「仮に夏樹が何の怪我も追わなかったとしても、お前を恋人として実家に連れて行くわけにはいかないだろ。家元になる以上は、跡継ぎを作らないといけない。さすがに俺も、男の恋人がいながら女性と結婚するなんて、そんな不貞はできないからな。だからお前とは、遅かれ早かれ別れざるを得なかったんだ」 「そんな……」 「……ごめんな、夏樹。でも、お前とつき合ってる間はホントに楽しかったんだ。俺が次期家元じゃなかったら、ずっとラブラブでいられたのにさ……」 「…………」  なんだか、市川は既に別れること前提でいるようだった。未練タラタラではあるが、「家の事情があるからやむを得ない」という態度だった。  そんな……そんなの……。 「……それじゃ、俺の気持ちはどうなるんですか」 「えっ……?」 「さっきから黙って聞いてりゃ、先生、自分のことばっかりじゃないですか。先生のお家事情なんて俺には関係ないし。だいたい、今の家元は世襲制じゃないところなんていくらでもあるでしょ。なんなら、先生の代から世襲制をなくしちゃえばいいんです」 「いや、それはさ……」 「というか、さんざん俺を口説いたくせに、『家の事情があるから別れてくれ』なんて、そんなふざけた話がありますか。俺は都合のいい遊び人じゃないんですよ? 最後まで責任持てないんだったら、最初から口説かないでくださいよ。あなたとつき合う前の俺を返してくださいよ!」 「夏樹……」 「俺……先生のせいで、どれだけ……っ!」  最後の方は、ほとんど涙声になっていた。  感情が抑えられなくなり、夏樹は市川に詰め寄った。そして噛みつくように自分からキスしてやった。

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