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春休み編『第25話』
表面的な汚れは全て落とし(さすがに中はどうにもならなかった)、一通りさっぱりしたところで夏樹は服を身につけた。
市川も手早く身体の汚れを落とし、さっと和服を着直した。
「それで夏樹、今日はお前らどこに泊まるんだ? どこかホテルでも予約してるのか?」
「……えっ? それは……」
そう言えば、宿のことは全く考えていなかった。市川の実家に行けばなんとかなるだろうと思っていたけれど、自分から「泊めてください」と言うのはさすがに図々しい。
すると夏樹の心情を見抜いたのか、市川が軽く笑みを漏らした。
「ああ、まだ決まってない? じゃあうちに泊まっていくか?」
「いいんですか? 翔太もいますけど」
「いいって。部屋はいっぱい余ってるしさ」
「そうですか。ありがとうございます」
……まあ、最初から泊まる気満々だったのだが。
「しかし……どうすっかな。お前らをなんて紹介するのが一番いいか……」
と、市川が顎に手を当てる。
「『高校の教え子です』でいいじゃないですか」
「それで大丈夫かね? 美和さんに目をつけられないかな」
「……ああ、祐介さんのお母さんでしたっけ。嫌がらせが激しいとかいう……」
「そうなんだよ。下手に俺と関係があるってバレると面倒なんだよな。地味に姑息なことをしてくるからさ……」
「別に俺、女性の嫌がらせくらいどうってことないですけど」
「まあ、夏樹はたくましいからな。でも翔太まで巻き込むわけにはいかないだろ。翔太は全然関係ないんだから」
「あー……それもそうか。じゃあ、どうしましょう?」
二人で頭を捻っていると、にじり口がトントンとノックされる音がした。次いでガラリと戸が開いて、祐介と翔太がにじりながら入ってきた。
「話し合いは終わったかい?」
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