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体育祭編『第1話』

 四月になった。夏樹はめでたく高校三年生になった。  三年生にはクラス替えもなく、クラスメートは二年生の時と同じメンバーだった。担任教師も変わらず、教科担当も(選択科目以外は)ほとんど変わることなく、一見二年時と代わり映えのない学校生活に思えた。  ただひとつ、市川がいないことを除けば。 (体育、か……)  彼の代わりに担当になったのは、三学期に引き続き山下教諭だった。スパルタではないけれど市川に比べるとやや古風な教師で、体罰はないまでも不出来な生徒に対して大きな声を出すことも多かった。  さほど評判が悪いわけでもないが、市川ほど評判がいいわけでもなく、もともと体育が嫌いだった夏樹は、ますます体育が嫌いになってしまった。  市川がいた頃は、それでもサボらずに授業には出ていたのに……。 (サボりたい……)  憂鬱になって、夏樹は市川に「体育の授業、嫌だ」とLINEした。すると数分で画像が送信されてきた。  何かと思ったら、鍛え上げられた彼の腹筋の画像だった。「これ見ながら頑張れ!」という一言も添えられていた。 (馬鹿か、この変態教師!)  今すぐ電話をかけて「アホですか!」と罵りたくなったけれど、生憎今は時間がない。それに、一度話し始めたら電話を切るのが惜しくなってしまう。  仕方なく「バーカ」という意味のスタンプを三つほど連打し、夏樹はスマホをしまって席を立った。 ***  体操服に着替え、夏樹は嫌々体育館に向かった。今日は外でハードルをする予定だったらしいのだが、午後に入って天気が悪くなってきたので室内でマット運動をすることになったのだ。 (ったく……)  市川とつき合うことになって以来、毎日身体を解すストレッチはしている。だからマット運動くらいならさほど苦ではなかった。  ……が、担当教師が別の教師だと思うだけでやる気が減退してくる。グラウンドで走り回るよりはマシだけど、市川先生の授業じゃないなら、体育なんてやっても意味がないなとさえ思ってしまう。  なんで勝手に学校辞めちゃったのか……などと、今更どうにもならないことを内心でボヤきつつ、夏樹は山下教諭の指示通りマット運動に取り組んだ。

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