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体育祭編『第2話』
「では、今日の授業はここまでだ! 全員整列!」
六時間目のチャイムが鳴ったところで、山下教諭が声を張り上げた。
生徒全員が先生の前に整列し、学級委員がお決まりの挨拶をする。
「気を付け! 礼! ありがとうございました!」
夏樹もみんなと一緒に頭を下げ、ようやく今日の授業が終了した。
六時間目が体育の場合は、帰りのHRはなしでそのまま解散していいことになっている。部活に行く人は部活に参加し、帰宅する人は着替えて下校するのだ。
ところが、
「笹野! 授業で使ったマットを片付けておくように!」
と、山下教諭にどやされ、夏樹は「えっ?」と彼を見返した。確かこの前の授業でも、自分が道具を片付けた覚えがあるのだが。
「終わったら体育倉庫に鍵をして、職員室に戻しておくこと。いいな」
反論するよりも先に、山下教諭は体育館を出てどこかへ行ってしまった。多分、陸上部の監督に行ったのだろう。確か陸上部は今、夏の大会に向けてトレーニングの真っ最中だったはずだ。
「……ったく」
仕方なく夏樹は、マットを体育倉庫に戻しに行った。なんで俺ばっかり片付けをさせられなければならないのか。こんなの不公平じゃないか。授業で使うマット、意外と重いのに。
(市川先生の時は、出席番号順に当番を決めてたのにな……)
多分、山下教諭の中では「片付けは成績が思わしくない生徒がするもの」と決まっているのだろう。だから夏樹ばかり指名される羽目になるのだ。
(みんなもちょっとくらい手伝ってくれればいいのに……)
クラスメートなんてのは案外薄情なもので、自分には関係ないとなれば、授業から解放された途端、さっさと部活に行ったり下校してしまったりする。夏樹を気にかけてくれる人なんていなかった。
「あああ、もうっ!」
むしゃくしゃして近くに転がっていたバレーボールを壁に投げつけたら、跳び箱にぶつかって戻ってきた。どの学校にも必ずあるような、ごく普通の跳び箱だ。
それを見たら、ちょっと切なくなってしまった。
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