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第2話 白昼夢①

暁と坂下の距離は急速に縮まっていった。 ちょっとした『有名人』の坂下は、噂にたがわず変わっている。 坂下は話しかけられない限り、ほとんど誰とも口を利かない。 学校でずっと眠っているから、特定の友人もいない。 初めから作る気などなさそうだった。 暁が意外に思ったのは、坂下が自分の授業態度を申し訳なく思っていることだった。 学年で常にトップを維持しているにもかかわらず、坂下は謙虚だった。 授業をほとんど聞いていないにもかかわらず成績優秀な坂下を、同級生や教師は『天才』と見ていたが、実際は教科書や問題集はどれも丁寧に学習した後があり、どこか見えない場所で努力していることは明らかだった。 とは言え、暁から見る限り、坂下はテストの結果などどうでも良さそうにしている。 坂下は、食事さえ半分寝ながら食べている。 暁が起こしてやらなければ、昼休みをそのまま寝過ごし食べそびれることもままあった。 せっかくの弁当を、だるそうに肘をついて口に運ぶ姿は、まともに味わっているようには見えない。 「作ってくれた人間に悪いって思わない?」 見かねて一度口に出したことがあった。 母親が丹精したに違いない、きれいな彩りの凝った弁当。 冷凍食品など使った様子もない。 暁がバイト先からもらってくる、期限の切れた売れ残りの弁当とは雲泥の差だ。 坂下は自分を恥じたように俯いただけだった。 「お前ら、最近仲良しじゃん。」 季節が梅雨を迎える頃、クラスメイトの薮内に指摘され、暁はニヤリと笑う。 「全然話題かみ合わなさそうなのに。」 「ちょっとした協定を結んでるんだ。」 熟睡しきって授業に支障が出るようなときには、暁の判断で起こすことになっている。 授業中以外も、教室の移動などで世話を焼いている。 実際、授業が終わったことに気づかぬまま寝過ごし、体育の授業に出そびれることも、坂下には 珍しくない。 その代わり、暁は坂下の宿題を写させてもらう。 「あいつ、学校の提出物一度も欠かしたことないんだぜ。すげーマメなのな。」 「待て、お前、ただ起こしてやるだけで宿題全部やってもらってるのか?!くーっ、何だよそれ。うわ、俺も坂下と仲良くなりたかったぜ。」 「なればいいじゃん。」 「ん-、そうなんだけどさ…」 薮内にしては珍しく口ごもる。 コミュニケーション能力の高い薮内は、気難しい教師だろうがオタクだろうが、するすると心に入って打ち解けてしまう。 周囲に溶け込めない暁も、薮内には心を許している。 暁が一番立ち入られたくない部分を理解し、引き際を心得ているからだ。 「いやー、だっていつも寝てばっかいるし。ちょっとハードル高そう。何話せばいいのか分かんないっつーか。」 「普通だよ、冗談も言うし。ユーモアのセンスがあるかは別として。」 「そう…なのか?うーん、今度思い切って話しかけてみようかな…なんか緊張してすべっちゃいそう。」 薮内の言わんとすることは、暁にも理解できた。 暁としても、坂下が絵のことで親しげに話しかけてこなければ、自分から関わろうと思うことはなかった。

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