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第7話 サプライズパーティ①
アミューズメントパークは、坂下にとっては刺激が強すぎて疲れるばかりだった。
ダーツやボーリングに誘われても、どう楽しめばよいのか分からない。
映画を見るかと誘われても、上映中に寝てしまうのは目に見えていた。
遊び慣れた雰囲気の暁にあれやこれやと世話を焼かれ、坂下は気後れするばかりだった。
何かと暁に色目を使いながら声をかけてくる派手な女子高生たちも鬱陶しかった。
「つまんない?」
困ったように暁が聞く。
「そんなことないよ。ただ俺、こういうところ初めてだから……。」
「疲れた顔してる。眠いんじゃないか?」
「ううん、平気。ごめん……」
「いいから、あそこ入ろうぜ。」
坂下はカラオケの個室に連れられ、身を硬くして俯くことしか出来ない。
「ごめん、俺、歌とか全然知らないんだ、歌番組も見ないし。」
「歌わなくていいよ。」
暁はそっと坂下の目蓋に触れた。
「隈が出来てる。」
騒音と睡眠不足のせいか、実際坂下は乗り物酔いにでもなったような気分だった。
「ここなら防音になってるから、少しは静かだろ。ソファに横になれよ。」
「ごめん。」
「いいって。俺こそもっとよく考えて別の場所選べばよかった。」
「ごめん、せっかく誘ってくれたのに……。」
「だから、言うなって、それ。」
促されるままに身を横たえ、坂下は天井を見上げた。
安っぽい照明がちらちらと点滅し、坂下の神経を苛立たせる。
と不意に、視界が遮られた。
暁の手のひらが、坂下の目をすっぽりと覆っていた。
「やっぱり昨日も寝てないのか。」
坂下は無性に泣きたくなった。
汗で少し湿った、温かな感触。
心地よくて、放したくなくなる。
「大野くん、俺のこと、友達って言ってくれたよね。」
「……ああ。」
「藪君みたいに、あ、あきらって…呼んでいい?」
「え…あ、当たり前じゃん、聞くなよ、んなこと。」
「……暁。」
「うん。」
「暁……」
「うん、なに?」
「あのさ、その……友達として、聞いて欲しいことがあるんだ。俺、俺がいつも寝てばっかりいるのにはさ、理由があるんだ。」
もしもこの世に神様がいるなら、と坂下は思う。
せめて今日一日くらい、自分にも情けが欲しい。
「うん。」
「……俺さ、夜、眠るのが怖いんだ。だから、一晩中ずっと起きてる。」
少なくても、嘘ではない。
そう思いながら、坂下は暁の手が自分の目を塞いでいることに安堵を覚える。
「暗闇が怖いのか?」
言葉を選ぶように少し間をおいてから、暁が尋ねてくる。
「ん……ちょっとちがう。暗いだけなら平気なんだ。なんていうか、その、みんな寝静まっているのが怖い。すごく嫌なことが起こるんじゃないかって。」
「それで、ずっと起きてる?」
「うん、一晩中明かりつけて。俺は起きてるんだって夜に向かって叫んでる。子供みたいだろ。 自分でもおかしいって思うんだけど。」
「昼間は寝ても怖くないんだ?」
「うん。」
「じゃあ、ずっと寝てろよ。ついててやるから。」
「ごめん、せっかく……」
「こうして一緒にいるだけで、十分楽しいよ、俺は。」
「……ありがと、暁。」
「いいから、寝て。」
「暁……」
「うん?」
「あき…」
手を離さないで。
つかまえていて。
暗闇から自分を連れ出して欲しい。
言葉にする代わりに、坂下はそっと唇を噛みしめた。
自分の感情は『友達』という言葉では置き換えられるものではない。
一歩踏み出したときに、相手に引かれるのが怖かった。
募る想いは加速するばかりで、自分ではもはや止められなかった。
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