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第6話
平日のランチタイム。
公園のベンチに並んで座り、買ってきた弁当を食べる。
「嬉しいです。本当にまたお会い出来る日が来るなんて。」
隣で笑う瀬尾くんは、まるで懐く大型犬のように笑顔を見せながら喜んでいるというオーラを全身から出す。それを見て、俺もなんだか嬉しくなってしまう。
初めて瀬尾くんと出会ってから2週間。俺はあの日から毎日瀬尾くんに会いたくなってしまって、先週、仕事用の携帯から瀬尾くんに連絡を入れた。
篠宮には瀬尾くんのことは話していない。しかし普段篠宮は俺のプライベート用携帯しかチェックしない。それに会うのが平日、それも通常仕事をしている時間であれば仕事の打ち合わせだと言い訳が立つ。実際彼は取引先の社員なのだし。
今までは相手にどんな被害が出るのか怖くてこんなこと、する気も起きなかったのだけど、瀬尾くんには篠宮の目を盗んででも会いたくなる何かがあった。
これが本当に『運命』というものなら、散々聞かされ恨みさえしていたそれに、感謝すらしたくなってくる。瀬尾くんと過ごす時間が、俺をとても幸せにしてくれる。
「へぇ。佐伯さんもあの学園出身なんですか!4個上だったら…ちょうど被ってなかったですね。残念だな…。」
偶然出身高校が同じと分かってテンションを上げた後に瀬尾くんは目に見えてしょんぼりと肩を落とす。その姿がなんだかかわいい。
「…高校の時に出会ってたら、早くに『運命の番』に出会えた稀な例になれてたかもね。」
なんて、起こるはずもなかった過去の話をする。
高校生の時の俺はβ。仮に高校時代、αである瀬尾くんと出会っていたとしても彼に体が反応することはなかった。
瀬尾くんと初めて会った翌日、慌てて医者に行って瀬尾くんの話をしたところバースを入れ替えた人間が運命の番に出会うことも、別段不思議な話ではないと言われた。
運命の番とは出会った瞬間に「この人だ」と直感的に感じるような言わば「魂の紐付け」のようなもの。だから本来全ての生物が『運命の相手』を持っている。αとΩはフェロモンを発するのでそれが他より見つけやすいだけなのだ、と。
それからすぐに俺は瀬尾くんが俺の『運命の番』であることを受け入れた。
だって篠宮と居ても何も昂らなかったこの感情は、体は、瀬尾くんに全てを捧げたくて、繋がりたくて堪らないのだ。
「そう言えば佐伯さんは篠宮さんって知ってますか?」
しかし瀬尾くんの隣でニコニコと話を聞いていた俺は突然飛び出してきた篠宮の名前に目を見開き固まる。
「たぶん佐伯さんと同い年なんですけど、彼は高校時代に『運命の番』に出会えたって有名でしたよ。」
「へ…え……。」
「篠宮さんの番も最初はβって周りに思われてたみたいで、篠宮さんと番になってから周りにΩだってことが知られたみたいです。」
そうか。あの時の俺と篠宮の話は、そんな形で伝わっているのか…。
「篠宮さんだけが彼がΩだって気付いてたんですよね。運命の番だからかな。」
瀬尾くんの話を聞きながら、俺は自分の表情がどんどんと暗くなっていることに自分でも気付いた。なのにそれを戻す気になれない。
「俺たちみたいですね。」
しかしその言葉に思わず顔を上げて彼を見た。
「俺だけが、佐伯さんがΩだって知ってる。…運命の番だから…。」
恥ずかしそうに、けどまっすぐと伝えてきた瀬尾くんにまたドクドクと心臓が大きく鼓動を始める。
「っ…瀬尾くん。」
「はい?」
俺を見つめる、曇りの無い彼の瞳。
「………瀬尾くんの、番になりたい。」
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