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第8話 ※

「…ごめん。まだ、抑制剤の効果、切れてないんだ。」 訪れたホテルで申し訳なく思いながら伝えた俺に瀬尾くんは「してる間に誘発されるかもしれませんよ。俺たちは『運命の番』ですから。」と笑った。 俺は最近頻繁に篠宮が求めてくるので、毎日抑制剤を飲んでいる。運命の番との邂逅さえも封じ込めてしまう効果があることには正直驚いたけど、これを服用し続ければ篠宮と番になることは無い。 今日もまだ効果は切れていない。篠宮としている時に効果が切れたことも無い。けど今回ばかりはその効果が切れることを望む。 「佐伯さん…。」 呟くように名前を呼んで、キスをしてくる瀬尾くん。やがてそれらは体に降りて行って、俺を高揚させるけど、初めて会ったあの時のようなタガが外れてしまった感覚にはならない。 …やっぱり抑制剤の効果が出ているのか…。 集中させるように目を瞑って求めるみたいに瀬尾くんの背に手を回す。 キスをして、愛撫を受け、俺も返す。そんな時間を繰り返しながら、やがて瀬尾くんの指が俺の窄まりに伸びてきて、そこを解すように動きだした。 「ん…、ぁっ。や…!」 グチャグチャと粘着質な音がそこから溢れる頃には俺は涎まで垂らして瀬尾くんを求めて、瀬尾くんは苦しそうに息を吐くと「挿れて良いですか…?」と睨むような目付きで尋ねてきた。 目が合うとゾクゾクと背筋に何かが這い、俺は無性に心許なくなってシーツを掻き集めた。そして下腹部がキュウッと震えたのがよく分かった。 「来て…、瀬尾くっ……ん、ぁ…ッ!」 自分のでも、篠宮のものでもない熱が体の奥深くに侵入してくる。 俺は今運命の番と繋がっているのだと思うと、感動で涙が溢れた。 「っんん…、は…、瀬尾くん…。」 「ッ…そんな締め付けないでください…。」 縋るように手を伸ばす俺の背に腕を回して抱え上げると瀬尾くんがキスをしてくる。 あぁ、好きだ。大好きだ。ずっとこのまま、繋がっていたい。 「…発情(ヒート)、来ませんね。」 ふと、瀬尾くんがぼやくように言った。 少し悔しそうな顔の瀬尾くんに、思う通りにいかない自分の体のことを恨めしく思う。けど、それ以上に今は瀬尾くんと繋がれたことの喜びを伝えたい。 瀬尾くんの首に腕を回して引き寄せるとキスをして、脚も瀬尾くんの体に絡ませてより密着するように体を寄せた。 「いい…。ヒートなんか来なくても…瀬尾くんとするの、すごい気持ち良い…。」 瀬尾くんの瞳に涙目の俺が映っている。だらしのない顔をしているけど、どうしようもない程に、笑顔を浮かべている。 瀬尾くんと番になれたら、俺は運命の番を手に入れて、そして篠宮からも解放される。 「早く俺の番になってください…!」 「っ…うん!うん!あっ…!やぁ、ぁっ!!」 「…ッ!」 中で放たれることに、初めて恐怖を覚えなかった。 受け入れさせられるだけだったはずのこの時間が、こんなにも愛おしく思える日が来ることを、瀬尾くんに出会う前の俺は想像もしていなかった。

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