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第10話

瀬尾くんと番になる為に、瀬尾くんの所に行って一緒に暮らさないか。そうすれば篠宮を恐れて抑制剤を飲むことも無い。 そんな話が、当初はあった。 けどそれは俺のわがままで断った。 篠宮は俺の職場を知っている。発情期が来るまでの間、本気で篠宮から身を隠すのだとしたら職場も辞める覚悟をしなければいけなかった。しかしそれはしたくなくて、少しずつ抑制剤を使う時間をずらしてみたり、量を変えてみたりして、瀬尾くんとしている時にちょうど良いタイミングで抑制剤の効果が切れるように試してきた。 けどその期間は俺の想像以上に瀬尾くんに負担を強いていたらしい。 『1日だけ泊まれませんか?』 「……。」 篠宮の待つ部屋に帰ってくると篠宮はシャワーを浴びていた。 それを確認して胸を撫で下ろす。この話を切り出すにはどんな状況であろうと勇気が要る。それなのに、少しでも先延ばし出来たことに酷く安堵してしまった。 「なんて言おうかな…。」 会社の泊まりの親睦会…は、うちはやった事がないから不審だ。出張と言うのがやはり無難だろうか? 考え込んでいるとカチャリ、と音を立てて篠宮が浴室から出て来た。 「あぁ。おかえり佐伯。遅かったね。」 「あ…うん。」 「毎日お疲れ様。」 ふんわりと笑みを浮かべた篠宮。 瀬尾くんと会っている時間は、篠宮にはずっと仕事と言ってある。今日まで篠宮から何も言われないということは、篠宮は本当に俺と瀬尾くんのことに気付いていないんじゃないだろうか。 言うなら、実行するなら、早い方が良い。 「…篠宮…。」 「ん?なぁに?」 「……明後日の金曜から、泊まりで出張に行くことになったから。」 「……へぇ…。」 欲張って土日と繋げようと思い『金曜』と言った俺に対し篠宮は意外にもあっさりした返事しか返して来なかった。 「佐伯の仕事って出張もあったんだね。大変な仕事だ。」 「うん…。俺も初めてだから…緊張する。新しく取引始めたとこの関係で…。」 信じてくれたらしい篠宮は微笑んだまま俺を労うように声をかける。俺が嫌がるから仕事にはそこまで干渉してこなかった篠宮だから、これも俺のテリトリーと理解してくれているのだろうか。 仕事の話で押し通す俺に篠宮は依然、笑いかけた。 「ねぇ、その出張は、今日も違う匂いを付けて帰ってきたことと関係があるの?」 「───…え?」 篠宮が、俺に、手を伸ばした。 その顔に張り付く笑みが、怒っているように見えることに、どうして今日の俺は気付けなかったのか。

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