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第11話

「体調不良で今日は休むから明日の出張にも行けなそうって会社には連絡しておいたよ。」 部屋に戻ってきた篠宮が伝えてきた言葉に思わず反応して、ベッドの上で僅かに身動ぎ顔だけを篠宮に向ける。 「でもおかしいね?出張なんて、聞いてないって。」 篠宮は相変わらず笑っている。美しすぎて、おかしい程、きれいに。 「……いつから…。」 いつから気付いていたの…? そう言いたかったのに掠れた声は途中で途切れて、音を乗せないまま空気だけが喉を通った。 だが篠宮は俺の聞きたかったことに気付いたようで近くに腰を下ろし、ベッドに横たわったまま動けない俺の頬を撫でた。 「…最初から…、なのかな?分からないけど、佐伯から違う人の匂いがするようになったのはもう4ヶ月も前からだよね?」 「…!」 本当に、気付いていたんだ。 「…篠宮。彼は、俺の運命の番なんだ。」 「……。」 「初めて会った時に互いに気付いたんだ!だから俺は瀬尾くんとしてる時はすごく幸せで…、っ…幸せなんだ…。」 篠宮を説得しないといけない。 こんな、無理矢理に抱かれベッドに伏せるしかないことはもう無いように。 きちんと伝えなければいけない。それなのに昨夜散々泣かされたはずの俺の目はまた涙を溢れさせて、体力も無いはずなのに嗚咽が体を揺らした。 涙を拭おうとぎこちなく体を動かしていた俺の頬を篠宮が優しく撫でる。 篠宮を見ると視線が合った。相変わらず、微笑む瞳。 「…本当は、佐伯とそのαの間には何も無かったんじゃないか…とも思ってたんだけど…。……そう。体も許してたんだね。」 「っ…!?」 「抑制剤と避妊薬、きちんと効いてたみたいで良かった。過剰摂取しても副作用があまり出ないくらい弱いやつだったから心配もしてたんだよ。」 「………え…?」 よく理解の出来ない俺に教えるように篠宮はベッドサイドのデスクから普段俺が使っているのとは違う抑制剤の箱を取って振って見せた。 パッケージに『効果が24時間持続』と書かれた箱。俺の買っているものは12時間なのに…。 そこで漸く合点がいく。 「っ…薬、入れ替えてたの…!!」 「佐伯のための特別仕様だよ。」 普段抑制剤にはアルミシートの部分に持続時間が書かれている。それが俺のやつは12時間のままだった。 だから薬が入れ替わっているなど疑いもしなかった。篠宮の会社から出ているものを使っているなんてこと、すっかり忘れて。 いくら薬の時間をずらしてもダメだったのはこのせいだったのだ。だから篠宮は毎日求めて来たのだ。俺がきちんと、毎日欠かさず薬を飲むように…! 「…だけどそもそもがおかしいよね?なんで抑制剤なんて持ってるの?」 とぼけたフリをして聞いてくる。そうやって追い詰めるから、逃げたくなるのに。 「ッ……、篠宮。俺の運命の番は瀬尾くんなんだ。」 理解してほしい。今度こそ。 軋む体に鞭を打って起き上がり篠宮に体を向けるが……それでも目を見ることは出来なかった。 「俺は瀬尾くんと番になりたい…!」 結局正面から思いをぶつけるしかなくなった。けど疑いながらも、俺が抑制剤を使っているのに気付いていながらも、何もしてこなかったのは篠宮だってもう俺に飽きているからなんじゃないのか? もう俺を、解放してほしい。 終わりにしてほしい。 お願いだから。 「ダメだよ。」 けれど、篠宮は俺の切望をその一言のみで壊した。 少し歪めた笑みと共に。

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