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第17話

「20週ですね。」 何が? よく、理解が出来なかった。 Ωに入れ替えてからの検診には篠宮に部屋に閉じ込められて以降来ていなかった。 先生と会うのも篠宮が部屋に呼んで往診をしてくれたあの時以来。 だが最近太ったにしてはなんだか違う様子で腹部が出ているので約半年ぶりに病院を訪れてみれば、俺の事情を理解している先生は難しい顔でそう言った。 「妊娠、していますよ。」 「…え、え?いや…。」 「Ωには生理などもありませんからね。気付くのが遅くなるのも仕方ないことです。なのでこの週数も胎児の大きさから出した目安ですが…。」 「え!?いや、だって…、俺…つわり?とかも全然ありませんでしたよ!?」 「それだって個人差があります。酷い人もいればほぼ症状の出ない人も居る。あなたは後者だったんでしょう。」 そんな…。 番になるどころか…子供まで?俺のこの腹の中に今、篠宮の子が居るのか…? 「い、や…嫌だ!!どうにかしてください!!」 「…もう堕胎可能な時期は過ぎています。Ωは特殊なので女性よりも更に週数が短く設定されているんですよ。」 「っそんな…!」 先生が、いつもの難しい顔を更に難しくさせている。 「佐伯さん…。出産を前向きに考えてはみませんか?」 「無理…無理です。どうにかしてください。助けてください…。先生…。」 「…篠宮さんがあなたを縛り続けてきた事情は、私も理解しているつもりです。あなたの心境までは理解できていないとは思いますが、それでも、お腹の子は生きようと必死なんですよ。」 生きる…。先生が言って初めて、この腹の中にあるのは1つの命だったのだと気付く。でも…。 「でも…、俺、もう無理です…!高校の時から俺は篠宮と居るしかなくなってました!友達を人質に取られて、一緒に住まわされて、従わなかったら閉じ込められて!『運命』だって…、その度に俺と篠宮は運命で結ばれてるんだって…訳わかんないこと言って…!!」 何度も逃げた。その度に捕まって、どんどん監視は酷くなった。瀬尾くんとのことがあったから、今は少し外出するにも監視が付けられている。今も監視はこの部屋の外で待っている。彼らにも、もう聞こえてしまえと思った。 「そんなにも必死になれる人と出会えたことが、彼にとっての運命だったのかもしれませんね。」 しかし先生は俺の叫びに対してそんな言葉を返してきた。 「……え?」 「本能で求める運命でなくても、あなたとの間に、何者にも侵されない何かがあるのだと信じているんでしょうね。篠宮さんは。だから壊されそうになったら必死で守るし、あなたさえも傷付けてしまう。運命というものを壊さないように。失くさないように。」 「……そんなこと…。」 そんなこと言われて、今更篠宮のことを理解しろと言われたって、出来る訳が無い。 篠宮が俺から奪ったものはあまりに多い。 友人も、家族も、性別も、好きな人さえも…。 俺は何もかもを篠宮に奪われ続けて来たのだ。 そして今は今後の生活も奪われようとしている。 「それに、あなたが中絶が不可能になるまで妊娠に気付けなかった。これだってもしかしたら彼の言う『運命』なのかもしれません。」 その言葉に瀬尾くんと居た時にどれが俺の運命だったのかと考えていたことを思い出す。 「…もしかしたら篠宮さんが1番、運命というものを信じたいのかもしれないですよ。」 「……。」 先生の言葉に、俺は何も返すことが出来なかった。

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