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第6話

着いたのは王が気にいっているという職人が一人で生活し店を営む二階建ての家だった。 一階が店で奥に作業をするための工場がある。繊細な細工物はそこで作られているようで、客の立ち入りは禁止である。 二階は生活区域であり、男の洗濯物が窓から干してあるのが見える。 妻に先立たれてからというもの、一人でここで過ごしているらしく、生活はささやかなものだと周りの者は言う。 頑固な男は弟子も取らず、偏屈な性格故子供たちは寄り付かず、その職人技を継ぐものは誰一人いない。 それが惜しくもあるが、王はだからと言って無理に弟子を取れとは命令しなかった。 その男の店にタタリはとあるものを取りにやってきた。 「例のものは仕上がっているか」 「ああ、アンタだね。王の注文じゃあ無茶な日程でも仕上げなきゃいけないってもんさ」 「俺にそんな口を利けるのにか?」 「ははは、そうだな。それもそうでさあ」 男、グリードバルドは高らかに笑う。 タタリに軽口を叩いても首を刎ねられないのは、もしかするとこの人と他国の王くらいかもしれない。そうコノエは思った。 例のもの、と言われてグリードバルドが工場から持ってきたものは水色のチョーカーに綺麗な金細工がされたものだった。 「ふむ。これは見事だ。いい出来だな、グリード。報酬はいつも通りに。それとアレも忘れず宮殿に届けてくれ」 「分かってるよ…それより、この方がコノエ様かい?」 名を呼ばれてはっとする。 帽子を取ってお辞儀をし、自分の名前を名乗ると、もじゃもじゃと蓄えた髭を二撫でしながら優しい笑みを浮かべ、グリードバルドはうんうんと頷く。 まるで祖父のような温かさだと心を温かくしていると、タタリがコノエの方にやってきて首元の鈴の着いたチョーカーを指さした。 「それを外せ」 「え、あ…はあ…」 戸惑って一瞬反応が遅れたがすぐに言われた通りにチョーカーを外す。 ちりんと子気味良い音を立てて外れたチョーカーを手に持ったまま、タタリを見上げると、彼は手に持った水色のチョーカーをコノエの首にはめた。 「呼ぶたびにチリチリ音を立てられてはかなわん。お前の声もこの鈴が邪魔で聞けん。これからはこれを付けろ」 不遜な態度の王は首元に水色のチョーカーが鎮座したのを確認すると、納得したように鼻を鳴らしさっさと店を出て行ってしまった。 なんだったんだ。とぽかんとしていると、隣でグリードバルドが額に手を当てため息を吐く。 「本当に不器用なお人だこって…愛されてるね、あんた」 そう言ってニカッと笑うグリードバルドになんとも言えず少しだけ曖昧に笑うとコノエは失礼しますと頭を下げてタタリの後を追った。 ―愛されてるなんて、有り得ない。彼は王で、俺は所有物でしかない。第一、俺には"恋人"がいるんだ。そんな気持ちがもし本当でも、答えられない。それに、 「俺は、タタリ様の事、大嫌いだよ」 その言葉は、誰に聞こえることもなく、無人の通りに落ちて消えた。

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