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第9話

ぴちょんと音を立てて雫が落ちた。広い湯船に溜められたお湯に波紋を広げて消えるさまを黙って眺める。 一国の王の入る風呂だけあって、公衆浴場並みに広い。もしかするとそれ以上かもしれない。いや、比べるのは失礼だろうか。だだっ広いその空間に、コノエは一糸まとわぬ姿で立っていた。 長い黄金色の髪の毛が、星々の煌めきのようにきらきらと輝き揺れる。コノエの体はとうに頭の先から足の指に至るまで洗い上げられていて、もう湯船に浸かる準備は出来ている。 タタリからも体が冷えぬうちに先に入って居ろと言われているのだが、なんとなく、その湯だまりに身を沈めるのを躊躇っていた。 特に理由はないのだけれど、と浴槽のふちに立って水面に映る自分の顔を見た。 美しいともてはやされる自分の顏には影が落ちている。覇気がない。それもそうだ。壱の国で、ましてあの嫌いな男の前で誰が楽しく明るい気分でいられるのだろう。あの男も、よくもまあ自分のような毎日つまらない顔をした人間を相手にしたいと思うものだ。 ポタリと一束だけはねた髪の毛から雫が落ちる。髪が力なく揺れた。 ぼうっとその様を見ていると背後に気配を感じてはっと振り返る。 「体が冷えると言っただろう」 「……タタリ、様」 「来い。お前も入れ」 いつの間にか後ろに立っていたタタリがつかつかと歩み寄ってくるとコノエの手を取り湯の中へとその体を沈める。 温かい水の中で後ろから抱きかかえるようにして腕の中に収められたコノエは大人しくその胸に体を預ける。少し冷えた自分の体温がタタリの熱を奪っていくような気がして、そっと目を閉じる。 どれくらいの間そうしていたのだろうか。コノエの体が程よく温まり、そろそろ湯船から出ようとした時だった。湯の中で無遠慮な手がコノエの乳首を引っ掻いた。 「―ひっ」 驚いて声を漏らす。ぱしゃんと水音を立ててお湯が跳ねた。慌てて口を両の手で覆う。 タタリの方へと視線をやると相も変わらず仏頂面だが、長いこと浸かっているからだろう、少し頬が赤みを帯びている。 「タタリ様、こ、こ…風呂で、んぅ」 どうせなにを言っても聞かない男ではあるが、この場所がどういう場所か忘れていないかという確認も込めて口を開くと、噛みつくようにキスをされる。ここがどういう場所かは百も承知だと言わんばかりの態度にコノエは心中ため息を吐いた。 タタリは、体制を変えてコノエを浴槽の縁に座らせるとその太腿にキスを落とす。 こんな場所で欲情するなんてどうかしているなんて思いながら、その羞恥に耐えかねていると、ぐっと体を押し倒される。 ひんやりとした床に背中を預けて広い浴室の天井を眺める。 折角温まったのにこれでは台無しである。と思いながら意識を別のことに向けようとしていたが、タタリの指や唇が自らの恥部に触れると途端にギクリと身を固くした。 「あっ…あ、タタリ様、やめっ」 ゆっくりと二本の指が自分の後ろを出入りするのを感じながら必死にタタリの怒りに触れない程度に静止の声を掛けるが、それを無視してタタリは指をもう一本手慣れた様子で増やす。と、指がちょうどいい所を掠めたのかコノエは一際高い声で鳴いた。 本来ならば性交の準備は奴隷自身がするものだ。しかし、コノエはここに来て以降一度もそんなことをしたことがなかった。というのも、今のようにタタリがすべてやってしまうからである。 それがマナーだとこの世で一番憎い男に教えられたが、初めてタタリに呼ばれた、つまるところこの城に連れて来られた日に、ちょっとした反抗心で態と準備もせず寝所を尋ねたらタタリは普段滅多に見せないと有名な笑みを見せてこれからもそのままでいろと言い放った。 コノエにとっても、嫌いな男のために自分で準備するなんて屈辱的なことをしなくて済むのならありがたいことだが、如何せん己の体、それも恥部を弄りまわされるなんて羞恥以外の何物でもなかった。 今この場は最高に恥ずかしいと感じる。自分の喘ぎ声が反響していると気が付いて声を抑えようと唇と噛む。顔を真っ赤に染めて羞恥に耐えるコノエにタタリが不満げな顔をする。 「声を我慢するなといっただろう」 「だって、ン、アッ…も、やめッ…あぁ」 タタリの不満げな態度と抗議するような指使いに追い立てられるようにしてコノエは達した。 はーっはーっと息を乱すコノエの片足を肩に担いでタタリはその太く大きな陰茎をゆっくりとその濡れそぼりひくついて淫靡な姿をした場所へ押し合当てる。 一瞬、コノエの目が見開かれて、嫌々と頭を振るがそんなものは無視をしてタタリはぐっと腰を押し進める。幾度となく繰り返したその行為だが、それでも慣れないとコノエは浅く息を吐いた。 二人分の荒い息遣いだけが鼓膜を揺すり、コノエはいよいよ羞恥でどうにかなりそうになっていた。赤面した顔を逸らして隠う小さなその抵抗にタタリはクスリと笑う。 ずるりとぎりぎりまで引き抜いたかと思うと一気に奥へと押し込まれる。 自分の感じるとわかっているところはタタリにももちろん知られていて、強くゴリッとえぐられると切なげな声を出してぱたたと精液を滴らせてしまう。 「も、アツ…い」 コノエは小さく声を漏らしてキスを迫るタタリのそれを力なく受け入れていた。その体に最早抵抗や意思は感じられず、ぐったりと横たわるコノエを見てタタリは少し無茶を迫りすぎたことを反省した。

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