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第12話

「ンッ…ハ、アッア、ン、ンー!」 肉のぶつかる音が響く。 一際奥を貫かれるとはしたない声が漏れそうで、コノエは唇をきつく噛んで耐えた。 初めは両の手で口を押さえて耐えていたが、二度達した辺りからタタリがイラついた様子で腕を掴んだ。 それでも意地になって声を出さないでいると、相当腹を立てたのか、タタリはコノエの陰茎に薄手のひもを括り付けた。 それだけに飽き足らず、突然のことに混乱したコノエが抗議しようと口を開くと、今度は布を口に突っ込む。驚きもほどほどにすぐにタタリを睨みつけるコノエだったが、この三年で開拓された自分の良い所をぐりぐりとえぐるように穿られると、身体がびくんと跳ねた。 「声を出したくないんだろう?」 「ン、ンン!ン~っ!」 首を振り腰を引こうとするコノエの腕をぱっと離し、腰を捕まえてさらに奥へと腰を穿つ。 意地の悪い笑みがコノエの背後でギラリと瞳を輝かせた。 イキたくてもイけないもどかしさと身体中を支配する気だるさにコノエはうっすらと生理的な涙を浮かべながら力を抜いてベッドに顔を埋める。 何度か自分勝手に腰を打ち付けたタタリだが、少しして小さく息を吐いてコノエの陰茎に巻き付いた紐を解くと、その火照ったものを手のひらで包み上下に擦った。 滅多にしないことをと少しばかり驚くコノエだったが、それすらも怠いようで力なくそれを受け入れていると段々達そうとする下半身に少しずつ意識が向くようになった。 そっとタタリが握っている方とは反対の方の手でコノエの口に入った布を抜き取る。 もうすべてがどうでもいいというようなコノエは抜かれていく自らの唾液で湿った布が放り投げられる様を深い海色の瞳で見つめていた。 「はっ…ふぅ、ンン…アァ」 気持ちがいいところを擦られて腰をびくつかせながら達する。 漸く得られた解放感に脱力すると、タタリも休憩とばかりにコノエから自身の肉棒を引き抜いた。 普段の倍以上の疲労感に眠ってしまいそうになるが、予め用意されていた水差しからコップに水を灌ぐ憎い男の背中を見てそれを止めた。 このまま寝るのか、まだ続けるのか。 後者ならば身が持たない。そう考えたが恐らくその予感が当たることは間違いないと思う。絶倫で身勝手な男だから。 コノエは小さく息を吐いて自分も水を飲もうと起き上がって手を伸ばす。長い髪が揺れてサラリと肌を撫でた。 生温い水が喉を潤していく。飲み終えてコップを水差しの横に置くと、タタリの唇がコノエの潤んだそれと重なって、そのまま体を押し倒される。 ーああ、やっぱり。まだ終わらない。 コノエは心の中で一人そう呟いてそっと目を閉じた。 *** イハルがコノエの姿を見たのは宴の夜から二日後昼のことだった。 王の寝室前を尋ねても食事などは台に載せて置いておけと言われたきりで、誰も部屋に入るどころか近付くことを許されなかった。 その日も、心配するリリィたちにいつも通りの仕事を任せながら、王の部屋の前に朝食を運ぼうとする召使の一人に声を掛けてその仕事の手伝いをしながら、王の機嫌を伺おうと思っていたら、部屋に籠りきりだった濃紺色の髪が姿を見せた。 時刻は丁度六時半を回ったところのことである。 目つきの悪い男はイハルと傍の少年を視界に入れるとつかつかと歩み寄る。 堂々としているイハルとは対照的にびくびくとしている少年に眉間にしわを寄せた王が口を開く。 「俺の分は後で執務室に持ってこい。アイツの分はイハルに任せる」 「か、かしこまりました」 びくつきながら少年がぺこりと頭を下げるのを見てタタリはもう用はないとばかりに背中を向けて去っていく。 それを見ながらイハルはため息を吐いた。 コンコンとノックをして部屋に入ると目を覚ましたばかりのコノエが体を起こして頭を押さえていた。 綺麗な金髪は少し乱れている。この数日、風呂はこの部屋を出て少し行ったところにある王の私用の浴室を使ったのだろうが、昨日の晩から掻いた汗で体は少しべたついているようだ。 声を掛けると少し掠れた声でまずシャワーを浴びたいというコノエに頷いて部屋を出た。 「エルリカ、ちょうどいいわ。ちょっと頼まれてくれるかしら」 コノエの部屋に向かっている最中に瑠璃紺色の髪を見つけて声を掛ける。 その言葉に、エルリカが頷いて持っていた洗濯籠を一緒にいた女性に預けると、渡された女性はにこやかに笑ってイハルに頭を下げて去っていった。 エルリカがなんでしょうかと首を傾げる。コノエが部屋から出てこれるのかと期待に満ちた目をしているのを見てイハルはひとつ咳ばらいをした。 「コノエ様がシャワーを浴びたいそうなの。浸からなくていいとは仰っているのだけれどお湯の準備をしてもらえるかしら?」 「!かしこまりました。ただちに」 その言葉を聞いて目をきらめかせたエルリカはさっと頭を下げてすぐに風呂場へと向かった。 コノエがこれから入るのは王の私室近くの浴室でも、いつもタタリと入るときに使う広すぎるあの風呂でもなく、本来であれば貴族や側室といった身分の人物が使うべきであるほどほどに広く豪華な造りのそれだ。 コノエは十分に自分の身分を理解していたのではじめは謙虚に使用人や同じ身分の少年たちが使うところに足を運んでいたが二度、三度ほど訪れた頃に王から強烈な怒りを買った。 これから一人で入浴する際はここを使えとはじめに案内されたのは本来王妃になる人が使う場所でそれはいかがなものかと思うと抗議したところ、王がならばここにしろとあてがわれたのがその風呂場だった。 もう何も言うまいと思うコノエに満足げに仕事に戻るタタリを見て、イハルはこの人はどうしていつもこうなのだという気持ちを抱いた。もうかれこれ三年も前の記憶だ。 コノエの服を用意して再び王の寝室に戻るとちょうどコノエが部屋着の腰紐を結んでいるところだった。 お盆に載せたグラスを差し出すとそれを受け取ってコノエが一口飲む。 「…すっきりしてて、美味しい」 「それはようございます。こちらは取れたての果実とオルシアの葉から煎れたものです。喉にもよろしいですよ」 「ありがとうございます。イハルさん」 ニコリと笑顔を浮かべるイハルに微笑みを返してグラスの中のそれをゆっくりと飲む。 さっぱりとした味わいのそれを飲み終えてイハルと共に部屋を後にすると、向かい側からリリィが少し速足でかけて来た。 「コノエ様!おはようございます!イハルさん、食事の準備は、」 「リリィ、はしたないわよ。朝食の前に湯浴みをなさるそうですからあなたもついていらっしゃい。それと、もっと落ち着きを持ちなさいと毎度言っているわよね、もう忘れましたか?」 「すみません、気をつけますぅ…」 コノエの少し疲れた顔を見た栗色の髪の女は嬉しそうに笑って声をかける。その慌ただしい様子をピシャリとイハルが咎めた。 いつも優雅に正しくあれとはイハルの定める侍女たちの指針である。 リリィはその優雅さにイマイチ欠けるところがあった。 怒られてしょんぼりとするリリィにコノエがふふっと笑みを浮かべる。 たまにだがこうして興奮気味にミスをする彼女がなんだか故郷の友人と似ている気がした。 「あら、コノエ様。いつものピアスは外されておいでで?」 「え?あれ?付けてたはずなんだけど……どこかで落としたかな」 ふとイハルが自らの耳元を指差して問う。 聞かれたコノエは驚いた様子で近くにある鏡で自分の耳元を見て、いつもの輪っか状のピアスがないことに気付き首を傾げる。 三人で周囲を見てみたが見つかる様子もない。後で探しておきましょうというイハルの言葉に頷いてとりあえずコノエはその廊下を後にするのだった。

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