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第二話 神からの艶文
くそ! また晴斗に話しかけられなかった!
綾瀬は落ち込みながら、その日ゆるゆると帰路をたどる。マンションの自室に着くと、ドア横にあるベッドへ荷物を放り投げた。
制服を脱ぎ捨て、スマホを取り出し、SNSツールであるtwatterのアプリ画面を開く。リプ(Reply)の通知を確認して、フォロワーから返信がないか目を通した。一件だけ画像つきでリプが届いていることに気づく。
え!? ハルさん!!
ハルとはBL界の神的絵師である。
イラストや漫画を中心にしたソーシャル・ネットワーキング・サービス、パク支部では名をとどめる大スター的存在。商業化はしてなく、一次創作の神と呼ばれている。
パク支部、Twatterは全てフォローしており、綾瀬はハルの熱狂的ファンだった。そのハルが綾瀬の小説『となりの平凡くんに日常はない』のFA(ファンアート)を送ってくれていたのだ。
マジで!? うわぁあ、なんだ、コレ! 尊い!
『となりの平凡くんに日常はない』こと、「となりの平凡くん」は綾瀬の全作品中第一に推すべき代表作である。
隣席の平凡なハルト(受)が超美形の転校生、綾瀬(攻)にあたふたと追われながらも恋していく美形×平凡受の創作小説だ。
いつにない真剣な眼差しで、綾瀬は食い入るようにスマホ画面を眺める。
そこには綾瀬とハルトが淫らで、かつ欲情に狂って絡みついた裸体があった。まるで綾瀬と晴斗の二人が快感に震えているようにみえて、綾瀬の股間はじんと熱くなる。
書き手にとって、FAは嬉しい。死ぬほど嬉しい。ファッ○アートでも嬉しいのだ。しかも尊敬する神絵師。綾瀬は天にも昇る気持ちで、イきそうだった。
晴斗の乳首えろい。萌える。そして尊い……。
綾瀬はスマホを机にそっと置いて、膝を折り曲げて両手を合わせ、BLの神へと祝福を祈った。
昼休み、満足に口がまわらず何ひとつ話せなかった晴斗が画面の中で淫靡に身体を広げてくれている。それだけで今までの苦労が報われた。
尊い。ありがとう。
BLを書いていて、よかった……。
綾瀬は心からBLの神へ感謝し、利き手が本能のおもむくまま下方へのびていく。
ヤバい! 危うくシコるところだった!
首を振って、理性を取り戻す。高まる性欲と感情を抑え、とにかくお礼リプを返さなければならない。黙っていれば礼儀にかける。礼儀知らずな人間と思われたくない。
綾瀬はさっそく、引用リツイで相手のツイを引き出し、心からの感謝を捧げようとスマホを手にした。
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