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第三話 神との語らい

『ひぇぇえ〜! ハルさんありがとうございます! エロい~~~( ;∀;) あーー(語彙力)! ハルトが可愛くて何度も見返しちゃいます。感謝です! 次回も頑張って書きますね(^^)』  恐ろしいものである。若き青年が書いた文章とこの脳変換の速度。  ただならぬ体位で快感を求めて絡み合っている画像を瞬時、『エロい』と『可愛い』に変換してしまう腐フィルターの存在……。  綾瀬は浮き足立っていたが、失礼のないよう丁寧に礼を述べて、送信ボタンを押した。 「ふう、今日はなんて日なんだ……!」  三次元の晴斗には上手く声を掛けれなかったが、二次元では最高のシチュエーションで愛を深められた。しかも尊敬する絵師様からの贈り物。目が覚めるような幸運に出会ってしまった。小説を書き続けてよかったと心底自分へ感謝する。  綾瀬はスマホ画面を閉じ、ベッドへ倒れ込んだ。  晴斗への恋心と化したBLへの情熱はマグマの吹き溜まりのように沸騰している。綾瀬の情炎は燃え上がり、その萌をオアフ島の火山並みに爆発させていた。ここで、綾瀬薫ことペンネーム「綾瀬」の異質な作品たちをご紹介しよう。 『平凡の日常』 『モブ受、今日からやめます』 『美形から追われる平凡くんいりますか?』 『今日からも平凡です』 『明日からも平凡です』 『来年も平凡でした』 『吾輩も平凡です』 『美形も平凡ですよ』    ご存知のとおり、平凡受を極めている。  昨今、BL界を賑わせているのはオメガバースや異世界モノが多い。  ただそのなかで、平凡受は昭和の腐女子からも愛され、いまでも信者は絶えないジャンルだ。  ハイスペイケメン攻が平凡くんに魅せられ、ストーリーが展開していく王道BL。攻の視線で平凡の特別な魅力を堪能していくのが見どころで、平凡受は需要が高く、この上なく(とうと)い史的価値を持つ存在なのだ。  しかしながら、平凡受は平凡な主人公に対して、総受けが多い。童貞のせいか健気かつ純粋すぎる故に、やたらと周囲のハイスペ当て馬にモテてしまう宿命をもつ。  だが、綾瀬は命よりも愛しい晴斗を、野蛮な男たちの目に触れさせることなどさせない。  綾瀬の小説はハッピーエンドが大前提。登場人物は攻、受、ノンケを準備させる。最後にはあふれる溺愛を満ちさせ、胸いっぱいに萌を投入させた。  美形×平凡受を徹底させて、懇切丁寧に書き上げていた。総受けなど豪語道断だった。  ちなみに攻と受は綾瀬本人と晴斗がモデルだ。たまに当て馬で、モブAこと田中が登場する。  安定した萌とトキメキ。ハラハラすることもなく、安心してBLを供給する細かな配慮に満ちた文章力。そこがウケた。綾瀬の小説は絶大な人気を誇り、平凡受の信者が後をたたない。みな、同じ神を崇めたてているが宗派が違うのだ。迷っていた子羊たちは綾瀬から眩いほどの光を見つけ祈りの門をたたく。  現実では隣席の平凡くんをモチーフに書いている狂気と化した奴なのだが、綾瀬はBL界の五本指にもはいる天才書き手と化したのである。  あ、またハルさんからリプが来た!  通知で画面がひかり、綾瀬は身体を起こしてTwatterをひらく。 『こんにちわ! 唐突にFAを送ってごめんなさい! ハルトくんが綾瀬くんにキスするところにキュンキュンしてしまい、ノリで描いちゃいました! 次回も楽しみにしてます! いつもありがとうございます(#^.^#)』  丁寧かつ可愛い文面に目頭が熱くなり、胸が締めつけられた。可愛い。俺の晴斗並に可愛い。俺がスパダリだったら、光の速度で妻にしたい。  綾瀬は悶えつつ、尊敬がやまない神絵師へ光の速さでリプを返す。 『いえ、とっても嬉しいです(*´ω`*) ハルさんの漫画楽しみにしています。ご無理せず、お身体お大事にしてください』  すると、ハルからもすぐに返信がきた。綾瀬の口許が緩んでしまう。 『ありがとうございます! 次回の更新も楽しみにしています!』  綾瀬は「いいね」を押して、スマホを閉じた。  あまり長いことつるんでいると、本人やフォロワーから鼻つまみにされる。この界隈は繊細で難しいのだ。未成年は排除されやすく、分かち合う友は少ない。  その晩、綾瀬は『となりの平凡くん』の最新話を書き終わると、ミラクル棒を扱いて幸せそうな顔で眠りについた。

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