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第四話 迷える子羊

※晴斗視点  その晩、鈴木 晴斗(すずき はると)はモクモクという作業通話アプリを通して、仲の良いフォロワーと絵を描いていた。  相手は一つ年下のケイト。少女漫画を描いており、Twatterで知り合った男子高校生だ。ペンネームはふわふわとした綿のようなタッチに似合わず、サイコパス・ケイトと名乗る。  晴斗の部屋の窓は夜の色に染まり、陽気なJ-POPが耳朶(じだ)を打つ。背後にはBL本であふれて本棚には様々なジャンルが並べられていた。 「とうとう、綾瀬さんにFA(ファンアート)送ってしまった……」 「ああ、ハルさんが(あが)める書き手さんですか?」 「そう! 読んだ? となりの平凡くん!!」 「いえ、BLは読まないので……」  ケイトは低く凛々しい声を漏らすが、集国社の少女まんが誌「マーガレッ○」を愛読書としている。最近は百合にも手を出して、パク支部とTwatterに漫画を配信していた。  対照的に晴斗はもっぱらBLばかりむさぼり読んでいる。二人の作風は両極端だが、穏やかな性格が引き合わせ、いまでは気心が知れた絵師同士だ。 「そっか、残念だな……」  晴斗の周りに腐男子はいない。  BLは三つ上の姉の影響で、物心つくころから大量の紙本に囲まれ、lPadには電子版でえげつないBLがダウンロードされていた。晴斗は従順な性格な上、読みつくした。  その成果が現れたのか、BLはちんぽっぽ修正の事情から電子より紙派というところまで精緻(せいち)を極め尽くしている。だが、同じ世界観を語るものは姉しかおらず、その姉も春から大学生で一人暮らしだ。つまり、晴斗の性癖だけが歪んでいった。 「喜んでくれました?」 「えっと、……うん、喜んでくれたよ」  綾瀬の小説の最新話、転校生の綾瀬(美形攻)がハルト(平凡受)にキスの雨を降らせていた。感極まってイラストをなりふり構わず描いて、軽快なタッチと淡い色彩で、憧れの綾瀬(美形攻)を美しく光線を放つように表現してしまう。  そのままTwatterにしたためると、波紋がひろまるように創作界隈にリツイされていった。  そして(つい)に憧れの書き手、綾瀬が反応してくれたのだ。痺れるほど素晴らしいお礼の言葉をもらい、礼儀正しい控えめな姿勢に、より一層好感を持ってしまう。  とうとう、FAを送ってしまった。FAはすぐに綾瀬によってリツイされ、お礼の言葉を添えて返信された。嬉しい。嬉しくて、晴斗は我を忘れそうになってしまう。  じつはこの晴斗、綾瀬の黒マシュマロにも匿名で何度も質問し、バブリスタには毎日スターとリアクションを連打する綾瀬の(たけ)り狂った読者であった。

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