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第1話
イギリスにただ一つ存在する魔術師を育てる魔術学校。本来その存在は世間一般には公開されていない。
それはそうだろう。魔術師の家系なんて、ほんの一握り。つまり選ばれた優秀な人間しか魔術師にはなれないということだ。
「それがどういうことか分かるか?そこの家畜」
「は、はい。つまりブラッド・レンフォート様のようなお方こそが、選ばれた人間ということですよね」
「ハハハッ!!あぁそうだ。俺は魔術師の家系。レンフォート家の息子。この学校でも学年一位の成績で、しかも貴族だ。その俺に楯突けばどうなるか……わかるよなぁ?」
オールバックに固めた自慢の銀髪を手鏡で直しながら、先程この俺に痛めつけられて、情けないく地面に這いつくばる男を見下ろす。
「くそっ……この悪人め」
どうやらまだこちらを威嚇する余裕はあるらしい。
そういえば、この家畜の名前はなんだったか?……あぁそうだ。ルイス・アルベルトだ。
チビで、さも一般庶民そうな平凡な顔。魔力も1番下のⅮ判定。俺とは天と地ほどの差がある。
そのくせコイツは、この俺に何度も楯突く愚かな奴だ。
「全く。貴様ごときがこの俺に魔術で勝てるわけないだろ?いい加減正義感だけで出しゃばってくるのは止めてもらおうか?」
「煩い!!お前の様な奴がいるから、魔術を悪用する魔術師が増えるんだ!!」
「ほぉ?この俺がなにをしたと?」
「……カトレアに、酷い事したな」
カトレア。
その名前を聞き、昨日の夜自分がしたことを思い出す。
「あぁ。あの胸だけ立派な女の事か。酷い事とは失礼な。この俺が可愛がってやったというのに」
瞬間、家畜の拳が目の前に迫るーーが。俺は指先へ魔力を込め、そのまま奴の腹へ魔力の塊を放った。
その威力に耐えられなかった小さな体は吹っ飛び。再び地面へ転がっていく。
ただ俺の魔力を当てただけでこのざまとは……。
「最近の魔術師と言うのは落ちぶれたものだな」
「ルイス!!」
デカい胸を揺らして地面に転がる家畜に駆け寄っていく薄緑の髪をした女。昨日俺が可愛がってやったカトレア・ローレンスだ。
カトレアは家畜を抱き寄せ、心配そうに見つめている。
「あぁ~~なるほど。ソイツは貴様の女だったか。それは悪い事をしたな。家畜」
「ち、ちがっ。カトレアは」
「ルイスは私の大事な幼馴染です……だからお願いします……これ以上彼を傷つけないでやってください」
涙をこらえ潤んだ瞳をこちらに向けながら、必死な声で家畜の代わりに許しを請おうとするカトレア・ローレンス。
実に愉快だ。全身が興奮と愉悦に震えている。
やはり自分より劣っている者を踏みにじるのは気分がいいものだ。
「いいだろう。そのかわり、今日の夜俺の部屋へ来い。また存分に可愛がってやる」
「なっ!?こ、このっ!!」
「ルイス!!っ……いいの。私は大丈夫だから」
「そんな……カトレア」
カトレアはただの幼馴染と言っていたが、この家畜はこの女に惚れているのだろう。だから俺に無理矢理抱かれたことが許せなかった……ってところか。
馬鹿な奴だ。どのみち自分の女にはならないというのに、なにをそんな怒っているのか。
ま、俺にとってこの女はただの性欲処理用の道具。別にこの手に納めたいとは思っていなかったが……嫌がらせに俺のものにするのも面白そうだな。
「ではな。待っているぞ。カトレア」
去っていく俺の後ろで、家畜の悔しがる声と女の不安そうな声が聞こえてくる。
「ふっ、ククッ」
溢れ出てしまいそうになる笑い声を抑えつつ俺は自分の寮へと戻った。
ここは生徒数も少ないこともあって、一人一人に立派な部屋が設けられている。
その中でも俺の部屋は別格。一流ホテル並みの広さだ。
「さてと、今日はどのワインを開けようか……」
常備されている赤ワインを開け、グラスへ注ぎベットの上でくつろぐ。
後二年間、俺はこの素晴らしい暮らしを堪能できる。
誰も俺に逆らわない。俺を見下さない。優雅な暮らしが……。
「魔術も今更こんな学校で習わずとも、既に俺は会得しているしな」
そうだ。俺は強い。魔術師としても優秀な方なんだ。
あの家の連中が異常なだけなんだ。兄が……異常なだけなんだ。
「クソッ。なに嫌な事を思い出しているんだ俺は」
今思うと、あれは予兆だったのかもしれない。
兄の様な、異常な存在がこの学校へ現れるという……俺自身に対しての忠告。
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