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第2話

「今日からこの学校へ転入することになりました。佐藤優士です。気軽にユウジと呼んでください」 「……日本人」 お人よしそうな小さな顔に真っ黒な艶のある髪。身長も百七十あるかないかくらいで、特に特徴のない男。 それでも、この魔術師しか入れない学校に日本人が転入してくる事自体珍しい事で、ユウジという男はすぐに注目の的となった。 「ねぇねぇ、やっぱり日本って忍者とかいるの?」 「というか、日本人でも魔術師っているんだな!!ユウジ以外にもいるのか?」 「それより俺、日本の漫画好きなんだ!!今度おすすめ教えてくれよ」 女も男も、サトウユウジとかいう奴の周りをまるで蠅のようにうろついている。 騒がしい。 鬱陶しい。 そしてなにより……。 「皆ありがとう。僕なんかに興味を持ってくれて。良かったらお昼に色々話すよ」 へらへらと愛想振りまく奴の顔が、腹ただしくて仕方ない。 しかもこの俺に挨拶もないとは……これは少し痛い目を合わせないといけないな。 「なぁ、俺も聞いていいかな?サトウユウジ君」 俺が立ち上がると、ユウジを取り囲んでいた蠅共は会話をピタリと止め。そのまま道を開くように二、三歩後ろへ下がっていく。 俺は開かれた道を堂々と歩き、座ったまま俺をぽかんと間抜け面で見上げてくるサトウユウジを見下ろした。 「なぁサトウユウジ君。君の魔力判定は、なにかな?」 「僕の魔力……ですか?」 「あぁ。この学校に入ってきたのなら、内に秘めている魔力量を計ったはずだぞ?そしてそれは、魔力量によってAからⅮまでの判定を受ける。ちなみに俺はA判定だ」 「それは素晴らしいですね」 「まぁ俺は、数少ない魔術師の家系。ブラッド・レンフォートだからなぁ」 「あぁ貴方が、あの有名なレンフォート家の」 「ふっ」 この国の者でなくてもこの俺を知っているくらい、俺の存在は大きいということか。 「お兄様がこの学校を三年間成績トップでご卒業し、今は魔術医療で素晴らしい結果を残していらっしゃるとか」 「……は?」 一番聞きたくなかった言葉に、沸々と怒りが沸き上がる。 レンフォート家。 その名前を出して先に出てくるのが、兄……兄、兄、兄。日本から来た奴まで、兄の話。 「許さん」 「え?」 「ユ、ユウジ!!このお方にその話は」 「もう遅い。サトウユウジ。この俺と手合わせ願おうか」 周りがざわつき始めた。 それもそうだろう。魔術師同士の一対一の対立というのは、昔から互いの何かを賭けて戦う……まさに争いだ。時には命のやり取りにまで発展する。 そして互いに何かを賭けた瞬間、それは『契約』として必ず結ばれることとなる。決して逃げられないように……。 つまりこの戦いで俺は、この男を支配できるという事だ。 因みに賭けるものは、互いに同等の価値があるものでなければならない。 だから俺が人生に関わるほどの大きなものを賭ければ、奴もそれと同等のものをかけなければならなくなる。それが魔術師同士の戦いというものだ。 「おい待て!!ユウジは何も悪い事してないだろ!!」 サトウユウジを匿うように前へ出てきたのは、先日痛めつけてやった家畜だった。 全く。何度も格の違いを教えてやってるというのに、この家畜は相変わらず鬱陶しい正義感をこの俺に押し付けてくる。 そろそろ殺してやりたいくらいだ。 「ふっ。あはははは!!なら貴様がこの俺と勝負するか?惨めで弱虫のルイス・アルベルト君。あははは!!」 「くっ……」 先ほどの威勢のよさが嘘のように黙り込み、何もできない自分に歯を食いしばる家畜。 ここにいる奴等の大半もそうだった。 最初は俺に反発し、誰もが俺を悪党だと指を刺した。 だが結局、魔術師と言うのは力が全て。 反発してくる連中を次々に痛めつければ、いつしか誰も俺に逆らわなくなった。 なにが悪だ。なにが正義だ。そんなものただの戯言だ。 強いか弱いか。それがこの世界のルールだ。 「いいですよ。受けますその勝負」 「あ?」 家畜を後ろへやり、自ら前へ出てきてニコリと微笑むサトウユウジ。 その表情に、俺は今までにない気持ち悪さを感じた。 この俺の名前を知ったうえで、その余裕の表情はなんだ。 「ッ……気に食わない」 「僕は貴方様の様なお方、とても好きですよ」 「ッ!!貴様……この俺の馬鹿にするとは」 「まさか、馬鹿になんてしておりませんよ?」 「黙れ!!十八時半に闘技場に来い。さもなくば、そこにいる家畜を殺す」 これ以上不愉快な気分を味わいたくなかった俺は、残りの授業を受けずそのまま教室を後にした。 あれだけ人がいる中で時刻と場所を伝えたのだ。観客もまぁまぁ集まることだろう。 「さて、後二時間という限られた時間の中で、あのサトウユウジとかいう男はどう試行錯誤してくるか見ものだな」 俺は念のため、こういう時にいつも愛用している違法アイテムをこっそり手首にはめ。時間が経つのを優雅に待つことにした。

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