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第6話

目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入る。 どうやらあの後、俺は寮まで運ばれベットに寝かされたようだ。 「クソッ……頭が重い」 魔力を使いすぎたせいか、体を起こした瞬間頭がガンガンと打ち付けらるように痛み出す。身体もどこかダルい。 「チッ。誰かは知らんが、あのまま放置しとけばいいものの……」 俺はサトウユウジ負けた。 この学校に来てから誰かに負けること自体初めてのことだ。 「はっ……ここの家畜共にとっては最高に気持ちがいい試合だっただろうな。いつも自分達を見下してくるこの俺が、無様に負けたのだから」 サトウユウジと交わした契約の事もある。 きっと俺はこれからこの学校で、今までの様な振る舞いが出来ないだろう。 「ッ……腹正しい。この俺が、あんな下等生物共に見下されることになるなんて……絶対に許せん」 「流石に見下されるまではないと思いますよ?ただ、もう悪い事は出来ないかもしれませんが」 「……は?」 「ん?どうかされました?」 声の方へ恐る恐る視線を向けると、そこには足を組んでソファーに座っているサトウユウジの姿があった。 というか、声を掛けられるまで全然気づかなかった。なんだコイツ、気配を消すのまでうまいのか。 い、いや、そんなことはどうでもいい。部屋にいるなら普通俺が起きた時点で声をかけるだろう。何人の部屋でくつろいでいるんだコイツは。 「あはは。色々と言いたげな顔をしていますね」 「あぁ。言いたいことは山ほどあるからな……まず一つ聞こう。貴様、何故ここにいる」 「それは、僕がブラッド様をここに運んできたからですよ」 「はっ。なんだ貴様だったのか。それはまたご苦労な事だったな……で?なんだ?この俺に礼でもしてほしいのか?まさかそのためだけに俺が起きるまで待っていたと?アハハッ!!だとしたら馬鹿な奴だ。この俺がそのような事をすると思っているのか?」 「いいえ。思っておりません。ですがお忘れですか?貴方は僕に負け、そして契約が成立したことを……」 ソファーから立ち上がったサトウユウジは、微笑みを浮かべたまま近づいてくると、何故かそのままベットに乗り、俺の上へ跨ってきた。 「……は?」 二人分の重さに、ベットが軋み沈む。 漂う変な空気に、視線が反らせない。 「なっ……んだ」 小さな顔がさらに近づき、髪と同じ真っ黒な瞳が俺を覗き込む。 「ブラッド・レンフォート。貴方はもうーー『僕に逆らえない』」 玉を転がすような美しく甘い声が、俺の耳元で囁かれた瞬間。心臓がドクッと大きく跳ね、全身の血液が一気に駆け巡るような感覚に陥った。 慌てて胸元を見てみると、刻印が赤く色づいている。 あの時の契約で、俺は俺自身を賭けてしまった。つまり俺は、もうサトウユウジには逆らえない。この男の命令に逆らえない。 「貴様……この俺が悪事を働けないようにするのが目的ではなかったのか。正義のヒーローのように振舞っていたではないか」 「それは彼らが勝手に言ってるだけですよ。正直、彼らが貴方に虐められていようと僕には関係ないですし。寧ろ本当の目的は……これからですから」

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